2010年4月27日火曜日

考えるな、組み合わせろ!


こんにちは

先週はまもなく完成の神戸次世代スパコン棟の所轄消防署による検査がありました。
ぼくも発注者総括監督員として検査立ち会いしました。
大規模施設、しかも計算機室など大空間があったり、デリケートな計算機を設置する場所でもあるので、いろいろと消防設備も特例認定をうけています。
二日間に渡って、所轄消防署検査官の方もとても熱心に検査してくれました。
現場監理スタッフ、施工スタッフのこれまでの努力が実り、無事検査合格です。
建物完成までの大きな一山を超えることができました。
嬉しいです。

スパコンメインマシンの消費電力は1万kW以上にもなります。
消費された電力は、そのまま計算機室の中へ熱として放出されます。
この熱をしっかりと除去してやらないと、計算機室はあっという間に高温になり、すぐさま計算機が燃え始めてしまいます。
熱は空調によって冷却します。
1万kW以上もの熱を空調で冷却するためには、空調機から大量の空気を循環させなくてはなりません。
空調機室にばかでかい空調機を何十台も並べて、それをいっぺんに動かします。
その最大風速は10m/sにもなります。

同様な空調システムは、かつて世界一だったスパコン、地球シミュレータ施設でも採用されています。
ぼくの技術者としての信条は「proved techniqueの集積」です。
つまり、信頼される技術をうまく組み合わせて、よりよいものを造り上げていく。
あまり新奇な技術は採用しないで、こなれた技術を使う。
それによって迅速に安定したものを造ることができるんです。
新しい技術を開発するには、とても長い時間と試行錯誤が必要ですから。
次世代スパコンのような期間と予算が限られたプロジェクトでは、新規技術の開発はリスクが大きすぎます。

ぼくは次世代スパコン棟は「地球シミュレータ棟のマイナーチェンジ」と位置づけて造ってきました。
地球シミュレータは成功したプロジェクトですので、これに学ばないのは損です。
よいところは真似し、悪いところは改善する。
ぼくは何度も何度も地球シミュレータセンターに足を運び、現地をよーく観察してきたんです。

地球シミュレータの空調システムはよくできたものだと思いましたが、空調機室の騒音はひどい。
まるで地下鉄のホームに電車が入ってきた時のようです。
とても会話なんかできません。
騒音がひどい=効率が悪い、ということです。
空調機に入力した電気エネルギーが、空調動力に変換されず騒音に変わってしまっている、ということだからです。
調べてみると、地球シミュレータの空調効率は30%程度しかないことが分かりました。
これは改善しなくちゃね。

まず、空調機自体の効率を上げるためファンを変えました。
地球シミュレータ空調機のファンはシロッコファンというものでしたが、ぼくらは軸流ファンというものを採用。
これによって空調機効率は2倍以上になり、モーター容量も半分以下、つまり消費電力も半分以下にすることができました。
また、地球シミュレータは吹き出し空気をいったん静圧化してからマシンに送風していました。
これももったいない。
ぼくらのシステムでは動圧も無駄なく使うよう、空調機吹き出し空気をダクトで直接計算機室床下に吹き上げるようにしました。
これによって動圧->静圧変換ロスが減り、さらに効率を数%よくすることができました。

消防検査の時、検査官の要望で空調機全部を動かすよう指示を受けました。
火災が起こると、風によって火災は燃え広がります。
計算機室にどのくらいの風が発生するのか確認しておきたいとのこと。
ぼくも全部の空調機が動くのを体験するのは始めて。
ワクワクしましたよ!

スタッフにより空調機全台数の起動がされました。
確かにすごい風速です。
でも、とても静かなんです。
もちろんそれなりに騒音はしますが、でも会話は十分に可能。
よし!うまくいった!
静か=効率がいい、という証拠です。
ぼくはとても嬉しくなりました。

ぼくは

 技術者というのは「勉強家」かつ「なまけもの」でなければならない

と思っています。
勉強家というのは、これまで蓄積されてきた多様な技術を「知っている」ということです。
知るためには本を読んだり学会に出席したりいろいろな施設を見学したりしなければならない。
こういうことにお金と時間を使う。
で、自分の仕事にそれらで得た技術を活用するんです。
すると上手くいくわけです。
上手くいけば結果として「怠ける」ことができるってこと。
怠けることができれば、時間と体力と心に余裕ができる。
その余裕でまた新たな知識を得るために勉強ができる。
好循環です。

科学者でありSF作家でもあるアイザック・アシモフはこう言っています。

1.知識の断片を、できるだけ多く、広く、バラエティに富んでそなえていること
2.その断片を手ぎわよく組み合わせ、検討してみること
3.その組み合わせの結果がどうなるかを、すぐに見通してみること
  (アシモフ『空想天文学入門』、星新一『SF入門』からの孫引き)

前にも述べたように、まったく新しいものを生み出すには膨大な時間と、試行錯誤によるたくさんの失敗を必要とします。
もちろん、新しいものを生み出すことも必要です。
そういう人も世の中には必要。
でも全部が全部新しいものである必要はないんです。
今ある知識、技術でほとんどの問題は対応でき、解決できるのです。
だから勉強は不可欠なんです。

ぼくの役割はまったく新しいものを作り出すことじゃない。
いちいち新たに考えちゃいけない。そんな暇はないんです。
今問題になっている事項に使える知識、技術を当てはめるんです。
ひとつじゃだめなら、いくつかを組み合わせてみるんです。
それが合理的なやり方なんです。


写真は次世代スパコン棟メインマシンを冷却する空調機。
デカイ空調機がこれだけ並ぶと壮観ですねー。

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