今、職場のスタッフたちにエネルギー管理工学の勉強を教えている。
管理するには基本を知らねばならない。
その基本とは、電気工学と機械工学である。
そのまた基本とは物理学である。
物理学と言ってもびびる必要はない。
高校で習う物理程度の知識と技能があれば十分。
スタッフの中に、工業高校の電気科卒の若者がいる。
仕事熱心で、設備管理に必要な資格もたくさん持っている。
2種電気工事士、電験3種、1種電気工事士。
これだけ持っていれば、電気に関する設備管理には十分である。
ところが、である。
エネルギー管理士試験の電気分野の過去問を解いているとき。
ケーブルの熱損失を求める問題だった。
これは基本中の基本、電気が専門の技術者なら簡単に解ける問題。
電気の資格で言えば、いちばん優しい2種電気工事士筆記試験程度。
だが、彼は解けないのである。
あれれれれ??
電力P=抵抗R×電流I^2だよ。
高校でも習ったはずだし、2種電気工事士の筆記試験には必ず出題される。
高校卒業して10年以上経ったから忘れちゃったのかな。
工事士免許もずいぶん前に取得したからね。
でもねー、こういう基礎的なことを忘れてしまっては、今の設備管理の仕事だって満足にはできないはずだよ。
まして、エネルギー管理で改善しようなんて思っても、どこを改善すればいいのか判断できなくなっちゃう。
自分でわからない人は、他人に頼るしかなくなる。
じゃ、コンサルタントに頼みますか。
頼むにはお金もかかります。
そしてコンサルタントだってピンキリ。
へんてこな奴だっているんだ。
だまされないためには、コンサルタントから提出されたレポートを評価できなくちゃね。
でも実力がなく評価できない人は、コンサルタントのいいなりになるしかない。
へんてこな提案を受け入れて、またお金が出ていく。
それでうまくいかなかったとき、絶対にコンサルタントは責任をとってくれない。
実力がなくて、どこが悪いのか追求できないから、言いくるめられてしまう。
こうして時間とお金を浪費してしまうんだ。
実力がない人は悲しい。
特にある程度の年齢になって、人の上に立つ立場になってから、苦しくなる。
そうならないようにしなくちゃね。
そう言えば、と若い技術者君言った。
前の現場で、電気のことを教えてもらいたくて電気主任技術者の人に質問した。
そうしたら「バカ!そんなことも知らないのか!」と言われたって。
結局何も教えてもらえなかった。
それはね、教えてくれなかったんじゃなくて、教えられなかったんだよ。
実力のないおじさんほど、怒りっぽい。
自分の実力のなさを怒ることで覆い隠したいらしいんだな。
でもバレバレだよね。
そういうおじさんになるんじゃないよ。
工業高校の電気科を卒業すると、2種電気工事士(一般家庭の100Vや200Vの配線工事ができる資格)国家試験の筆記は免除になる。
なので、実技試験だけで免許取得。
さらに、工業高校電気科卒の人は、実務経験5年で電気主任技術者免許を認定で取得できる。
つまり試験なし。
そしてさらに、電気主任技術者免許取得後、実務経験5年で1種電気工事士(6600V以上の高圧の電気工事ができる資格)も試験免除で取得できる。
資格をたくさん持つこの若いスタッフは、実は確固たる実力がまるでなかった。
実力もないのに資格が与えられている。
それはなぜ?
実は資格を取得するには、試験を受ける他に道があるだね。
つまり、彼は勉強らしい勉強はまったくしないで免許を次々と取得してきたわけ。
ぼくは、う~む、とうなってしまった。
それでいいのか。
確かに、免許を取得することが「目的」であれば、この方法は非常に合理的である。
免許を持っていれば、それだけ人材としての市場価値が高まり、就職にも有利になる。
でもその実態は、免許に値するだけの実力がない張りぼて。
これって、かなりリスキーな生き方だと思う。
本来、免許は何のためにあるのか。
いい仕事をするためであろう。
資格、免許はそれだけの実力がある 者に与えられ、国としてその技術レベルを保証するものだ。
これは 逆じゃないよ。
免許があるから実力があるわけじゃないんだ。
実力があるから免許が与えられる。
それが本来だ。
だから資格、免許取得の本当の「目的」は、その資格、免許を使ってよい仕事をするってことなんだよ。
そして、資格取得はそのための「手段」なんだな。
実力を身につけ、腕を上げるための「手段」なんだ。
決して資格取得が「目的」じゃない。
手段を目的と勘違いすることが不幸を呼ぶ。
実力もないのに、その有資格者として責任ある立場に立たされる。
それは恐怖でしかない。
目隠しして車を運転するようなものだ。
い つ何時事故に遭うかもしれない。
アクシデントがあれば、有資格者 として責任だけとらされる。
免許剥奪、懲戒解雇、ばあいによっては実刑判決、刑務所行き。
こんな人生は嫌 だよね。
でも勉強するのは、努力するのは面倒なことだ。
だから安易に免許取得する方法があれば、そっちへ流れてしまう。
そういう技術者ばかり現場にやってくる。
恐ろしいことだ。
それを食い止めなくては。
文句を言っても仕方ない。
だからぼくはスタッフたちに学びを教える。
学んだことは実際に役に立つことを教える。
それしかないのだ。
1 件のコメント:
最小の努力で最大の効用を得ようとする。それが善とされる世の中だ。
だから若者は、勉強しないで資格を得る道を選んでしまう。
だがそれは結局のところ、かなりリスクの高い行為なのである。
実力もないのに資格を得てしまい、壊れてしまった人をたくさん見た。
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