2011年4月20日水曜日
行動経済学入門
こんにちは
昨年度末、人事部からこんなお知らせがまわってきました。
> 昨日の部長会でも人事部よりご報告いたしましたが、
> 定年制事務職員の自己啓発意欲を喚起し、理研の経営効率の増進を目的とした
> 特別昇給の申請受付を行います。
> 今回は、平成19年~平成22年度に昇給事由に当てはまる件があった場合、
> 申請の対象となります。
労働基準法(第14条第1号及び第2号)では、「高度の専門的知識等を有する労働者」というのを定めてあって、こういう人は普通より長期の労働契約を結べることになっています。
専門的知識、技能を持つ労働者は代替えが効かないので、会社としても長期間確保したいわけです。
どんな人が専門的知識等を有する労働者か、具体的にはこんな具合です。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/02/h0213-3.html
我が社としても高度な専門的知識、技能を有する社員を優遇し、あるいは社員が高度な専門的知識、技能を自ら獲得すべく努力することを期待して、特別昇給させようということなんですな。
ぼくは我が社にこんな制度があるなんてちっとも知りませんでしたよ。
で、こういうお知らせがまわってくるということは、年度末になっても誰も申請する人がおらず、人事も困っているんだと思いました。
困っている人を放っておけないのがぼくの性分。
幸い20年度にぼくは第一種放射線主任者試験という大形資格に合格していました。
この資格は厚労省で定める高度の専門的知識には含まれていませんが、ここに書かれている資格と遜色ないレベルですし、我が社のような研究所には必須の資格です。
実際、放射線主任者試験で勉強したことを活かしてXFEL棟の設計や施工監督にあたりましたからね。
放射線の知識が身に付いたおかげで、かなり見通しよく仕事ができたんです。
厚労省で定めた資格に準じるものとして、堂々と申請できると判断しました。
4/1にぼくはちょこっと昇格し、辞令をいただきました。
そこには「俸給○等級△号俸を給する」と書いてありました。
さっそく我が社の給料表を調べました。
我が社の場合、昇格しても給料はドカンとは上がりません。
等級が上がって、今もらっている給料の直近上位にランクされることに決まっています。
給料表を見てみたら、もらった辞令では直近上位よりちょびっと上のランクになっている。
「やったー、特別昇給したんだー」と思いました。
さっそく人事の担当者にお礼のメールを打ちました。
ところがところが、そうじゃなかったんです。
お礼のメールを打ったすぐ後、廊下で人事課長に会いました。
それによると、昇格すると直近上位より上の号俸にするよう最近規程が変わったのだそうです。
だからぼくの場合も昇格に伴う昇級だけだったんです。
つまり特別昇給はなしだった、ってこと。
人事課長は「関口さんは昇格もして、加えて特別昇給もさせてしまったら上げすぎになってしまいます。合格した資格は素晴らしいと思いますし、我が社にとっても必要なものだと思います。でも人事部長や担当理事とも協議した結果、今回は申し訳ありませんが特別昇給はなしでお願いします」と丁寧に説明してくれました。
がっくり、ぬか喜びでした。。。
我が社の人事も担当理事も行動経済学の研究成果をご存じないな。
行動経済学には「プロスペクト理論」というものがあります。
人の感情は、収入の増加に対して比例しないんです。
収入が増えれば嬉しいんだけど、その嬉しさはどんどん収入が増えていってもあまり嬉しさは増えていかない。
収入が減れば悔しいんだけど、その悔しさはどんどん収入が減っても悔しさはあまり増加しない。
一番嬉しさを感じるのは、ちょっぴり収入が増えたとき。
逆に一番悔しいのは、ちょっぴり収入が減ったときなんです。
人は嬉しいときにやる気が出ます。
嬉しいとどんどん仕事をするようになります。
だから社員に仕事をもっとさせようと思ったら、ちょっぴり昇給してやるのがオトク。
逆に、人は悔しいときにはやる気が出ない。
悔しくてむしゃくしゃしていれば、仕事なんかする気になれないものです。
だから、ちょっぴり減給するのが最も損なやり方なんです。
昇給するならちょびっと、減給するならドカンとやった方が、経済合理的なんです。
ぼくもちょびっとでも特別昇給させてくれたら、もっとやる気が出て我が社のために貢献したのにねー。
あははははは。
ところで最近、人件費抑制のために人事評価制度を導入している会社も多いと思います。
総人件費が同じなら、仕事を良くやる人に多めに分配し、仕事をしない人には少なく分配する。
そうやって社員のやる気を喚起しようという魂胆ですな。
でもプロスペクト理論を適用するなら、やり方に注意が必要です。
よくあるやり方は、仕事をしない人からちょこっと減らした分を、仕事を良くする人にそのまま付け替える、というもの。
たとえば社員のうち10%のダメ社員の給料を減らして、10%の有能な社員にその分を付け替えるみたいな。
これは給与設計上大変よろしくない。
もちろん給料を増やした社員はやる気になりますよ。
ところが給料を減らされた社員はものすごくやる気を削がれます。
ちょこっと減らされるときほど、感情は悪化するというのが、プロスペクト理論の教えるところ。
減給された社員はすごくやる気を削がれ、本来持つパフォーマンスさえ発揮しなくなります。
どうせおいらの給料は安いんだから安い仕事してやれ、ってなもんです。
それに加えて、自分が減らされた分を優秀な社員が受け取っているんです。
その社員に対して恨みを持つようになります。
あいつのせいで俺の給料は減ったんだ、あいつが俺の給料を横取りしやがったんだと、優秀な社員の邪魔をしたり足を引っぱったりもするようになってしまうんです。
こうして、会社全体のパフォーマンスは悪化してしまうのです。
へたな実力主義給料は、平等横並び給料だったときよりも、悪い結果をもたらすのです。
ではどういう給与設計にしたらいいでしょうか。
プロスペクト理論をご覧なさい。
収入がちょこっと増えると、すごく嬉しくなる。
収入がドカンと減っても、悔しさはそれほど増えない。
人は嬉しければゴキゲンになってパフォーマンスが上がるんです。
そういう社員がたくさんいた方がいいでしょ。
それに対してやる気のない不機嫌な社員は少ないほどいい。
やる気のないダメ社員もそんなにたくさんいるわけじゃありません。
それなのに一律10%とか決めると、そこにやる気はあるけどまだ未熟で成果が上がらないだけの社員もダメ社員の烙印を押され、やる気を削いでしまうのです。
金の卵を孵化する前に腐らせてしまうようなものです。
それはもったいないですよね。
実は、トップ10%位の優秀な社員は給料が少しぐらい上がってもちっとも嬉しくないんですよ。
こういう人は仕事そのものが面白いし、やりたいことがやれるってことの方に価値を置いています。
給料以外に、同僚からの信頼や、お客さんからの賞賛など、たくさんの報酬を得ている。
こういう人にちょっとくらい給料を増やしても、それが劇的な効果を現すことはまったくありません。
それよりもごく普通の社員、会社に60%~80%といる人たちにがんばってもらう方が、会社全体のパフォーマンスは上がるんです。
もうお分かりかな。
だから本当に誰が見てもあいつはやる気もなく、人の足を引っぱるばかりで、邪魔なだけの社員。
こういう少数だけど組織の効率を極端に下げている社員の給料はドカンと下げるんです。
そしてそれを小分けにして、ごく普通の社員たちの給料をちょびっと上げる。
もちろん「よくがんばってるね」と一言も加えて。
そうすればごく普通の、たくさんいる社員たちは気分がよくなり、よりがんばるようになりますよ。
給料をドカンと減らされたダメ社員の方も、自分の給料を横取りした相手がたくさんいるので、足を引っぱることもできなくなります。
ダメ社員がごく少数なら、腐っているだけであまり仕事をしなくても、全体に対する影響は少ないでしょう。
会社全体のパフォーマンスは確実に向上するはずです。
いかがでしょう、こんな給与設計は?
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