2011年4月22日金曜日

快適な省エネ

こんにちは

空調冷凍学会に参加しています。
いろんな人の話を聞けるのが嬉しいですね。
自分の仕事に転用できそうな技術もザクザクあります。
学会参加はオトクですよ。

空調冷凍学会ですから、省エネ、脱炭素社会に関する研究が多いです。
昨日聞いた話で面白かったのは、省エネのため冬季18℃に空調温度を設定することが多いが、これは必ずしも省エネにならない、ということ。
18℃というのは、経済省などお役所が省エネのために推奨する冬の空調温度です。
外気が冷たい季節に過度に空調温度を上げるのはエネルギーの無駄。
それは確かなんですが、どんなときでもそうかというと、そうじゃないんです。

この発表によるとこうでした。
最近のオフィスは、建物の断熱がよくてOA機器が多く室内発熱の高い部屋が一般的です。
こういう部屋ではわざわざ空調機から暖かい空気を送り込まなくても、OA機器などからの発熱で温められているんです。
空調しなくても20℃~22℃くらいになるんですよ。
こういう部屋で18℃設定にすると、冬なのに空調機は冷房運転を始めてしまいます。自動的にね。
冷房して18℃に制御してしまうのです。

冷房するためは空調機はエネルギーを使います。
そして室内には冷風が吹いてきます。
室温を18℃に下げるために、空調機の吹き出し温度は14℃とか16℃とかかなり冷たい空気になっています。
部屋の中で仕事をしている人にその冷気が吹き付けられます。
寒くて不快です。
不快だと仕事の能率も下がります。
エネルギーを使って不快なオフィスを作ってしまうのです。
これって省エネじゃないですよね。

よのなかには「省エネ原理主義者」がいて、冬は18℃、夏は28℃以外は認めん!という職場もあったりします。
何が何でも冬は18℃じゃなきゃいけないって。
でも上に見たとおり、場合によって違うんですよ。
断熱がよい建物でOA機器など発熱のある部屋では、20℃とか22℃設定の方が省エネになるんです。
その上、冬はやっぱり18℃だとちょっと寒いよね。
ウォームビズなど暖かい服装をしても、がまんが必要。
20℃や22℃の方がやっぱり快適だし、仕事の能率も上がるんです。

OA機器などからの発熱で部屋が十分暖められているなら、空調機を停止できます。
動かさなければエネルギー消費はゼロです。
快適な温度でエネルギー消費がゼロ、これぞ本物の省エネですよ。
もちろん、必要な換気はしないとダメですがね。

ぼくの勤務する研究棟の研究室なんかまさにそうですよね。
計算科学、計算機科学の研究者ですから、高性能のパソコンを部屋に置いています。
パソコンの発熱はけっこうありますよ。
もちろん建物は新築したばかりで断熱性能もバッチリです。
研究室がどんな風に使われているのか、自分でもその部屋に行って最適な設定値を決める。
研究員の人たちと話し合って、快適性も損なわず、エネルギーも使わないポイントを探っていきたいと思います。

そもそもエアコンは快適な室温を作り出すための機械なんです。
オフィスのエアコンは快適な室温で効率的に仕事をしてもらうためのもの。
そこを外して、省エネ原理者になって室温設定だけ厳しく言うのは間違っていると思います。
エネルギーを使って冷房したのに、仕事の効率を下げてしまうのは、もったいないとしか言えません。
国土交通省が「仕事がはかどるオフィスビル」というテーマで業界横断的なコンソーシアムを開催していたことがあります。
日本のホワイトカラー、事務職の労働生産性が低いことは有名です。
生産性を高めるには、オフィス環境も重要だって事なんです。
空調も重要な一要素です。

「仕事がはかどるオフィスビル」の報告書の中に、<夏季に27℃から26℃に1度室温を下げると 能率が11.7%向上する>って書いてありました。
ナルホドーって思います。
省エネのために空調設定温度を高くすると、暑くてイライラします。
暑くてうちわやセンスで首周りを扇ぐ。
そんな時間だって、積み上げればバカにならないでしょう。

それなら、多少空調を効かせ気味にして、効率を上げて仕事をする。
その代わり、早く退勤すればいいのです。
たとえば、毎日2時間残業して10時間働いている職場なら、11.7%効率upするなら1時間は確実に早く退勤できる計算です。
1時間早く退勤して、空調を停め、照明も消せるなら、エアコンの設定温度を1℃下げて削減できるエネルギーを大きく上回る省エネ効果があります。
もちろん、残業代も減り、労働者の疲労も少なくなります。
きちんと睡眠時間を確保し、家族との時間や自分の自由な時間も増えます。
翌日に疲れを持ち越すことがなくなるんです。
翌日もバリバリ働けるようになるんです。
いいことずくめだと思います。
家に帰るより職場の方が快適だし、残業代ももらえるし、という困ったちゃんもいるかもしれませんがね。

省エネは、そもそも無駄に使われているエネルギーを「省く」ことです。
省エネのためだと言って、暑いオフィスで無理してダラダラと仕事をするのは、返って無駄なことだと思います。
もちろん、冷房しすぎのオフィスでふるえながら仕事をするのも無駄。
そこで働く多くの人が気持ちよく、効率的に仕事ができるような環境をつくる。

確かに光熱費はコストです。
コストを削減するのは正しい行為です。
でも「部分」だけ見ていると間違えます。
オフィスのコストをそこで働く人の人件費まで含めて考えてみましょう。
そうすると全体コストの中で光熱費の占める割合はわずかに5%くらいなのです。
その5%のうちの1/3、つまり1.7%が空調にかかるコスト。
たとえば空調コストを1%減らすことは、全体から見たら0.017%の削減にしかなっていないのです。
オフィスの快適性を損なってまで省エネするばかばかしさがわかるかと思います。

オフィスの快適性は損なわず、意味のない残業を減らしていく。
それが全体として最も省エネになるんだと思います。
省エネは「我慢」じゃないんです。
効率、生産性を落とさずに、無駄を省いていくことなんです。

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