2012年1月17日火曜日
自分の仕事を愛せ
こんにちは
世界一のスパコン「京」の冷却は、空冷と水冷の併用方式です。
特に水冷システムが効いています。
CPUなど発熱密度の高い部分を直接水で冷却しているのです。
これも世界に類を見ない画期的な技術。
世界一の性能を引き出すために必要な技術です。
30年以上前の大型コンピュータには水冷方式もありました。
が、近年はコンピュータ自身の省電力化が進み、コンピュータの冷却はどれも空冷となっていました。
空冷のほうが設備も簡便、運用も簡単ですしね。
30年以上も水冷設備が使われなかったので、コンピュータの世界からその技術が失われていました。
この水冷設備は建設工事で造りました。
その時役に立ったのは、SACLAでの加速器冷却設備の経験です。
SACLAのマシン冷却設備も建設工事で造りましたが、この技術をスパコンにも転用したのです。
技術というのは他のことにも転用できるものです。
転用できる技術が優れた技術なのです。
スパコンの水冷設備は加速器技術の転用でつくったわけ。
SACLAの冷却設備に比べたら、温度調節も粗くてすむので、楽チンでした。
それでも良い性能を発揮してくれました。
世界一のためのLINPACベンチマーク試験のとき、計算が開始された瞬間に4000kWも消費電力が増加します。
それもCPUでの消費電力が増える。
消費された電力は、全て熱になってコンピュータから冷却水へと排出されます。
この熱を取り去り、かつ水温を一定に維持しなければならないのです。
最初の数十秒こそ水温が数度上昇しましたが、すぐに追従し、以後は±1℃の範囲で安定に稼動しました。
スバラシイ!
このスバラシイ設備も、ずっと性能を維持するようにメンテナンスしていかなければなりません。
ぼくも加速器の水冷設備を造った経験はありますが、メンテナンスした経験はない。
もちろん、スパコン施設運転グループのスタッフにも経験がない。
スパコン冷却水設備を担当しているスタッフも、どうメンテしていったらいいか不安げでした。
なんか過剰にビクビクしている様子。
こういうとき、メーカーさんにメンテナンスをお任せしちゃうという手もあります。
でもメーカーさんはどうしても、安全側にメンテをします。
壊れて文句を言われたら困るからね。
だから過剰に安全側にメンテする。
まだ十分使える部品でも、早め早めに交換してしまう。
だから必要以上にコストがかかるわけです。
もちろんそういうメンテを請け負えば、利益も上がりますし。
でもそれじゃあムダも多いわけです。
ならば、経験のある人にメンテ法を聞きに行こう、と思いました。
県内にはSPring8という理研の加速器施設がある。
SACLAのある場所です。
ここでは10年以上の加速器冷却設備のメンテナンスの経験が蓄積しているのです。
加速器冷却設備の技術を転用して造ったスパコン冷却設備です。
メンテ法だって技術を転用すればいい。
どんなふうにメンテしているのか教えてもらい、そのまま真似をすればいい。
もちろん完全に真似はできないかもしれませんが、適用できるところは真似することのよって、適用できないところを集中して考えることができる。
全部ゼロからやるより、合理的です。
さっそく、SPring8の運転監視をしている人にコンタクトして、スタッフを現地に派遣しました。
ぼくも行きたかったんだけど、他の要件が出来て行けませんでしたが。
残念。
現地で学んできたスタッフは、意外とラフなメンテをしていることに安心した様子。
設備のメンテって、過剰にビクビクしてもいけないし、かと言ってあまりに放ったらかしもいけない。
その加減が大切なんですよね。
古川和男『原発安全革命』文春新書¥800-にこうありました。
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安全性の追求から人間がまったく手を触れない全自動的原発を提案する人もいる。
しかし、ブラックボックス的な全自動装置は、一見原理的に安全に思えても、テロ攻撃などを含む予想外の事態に臨機応変に対応できず、致命傷となるケースが多い。
装置は人間が親しんで使うものである。
内容・状況を常によく理解しつつ手塩にかけてこそ、装置は安全に最もよく働く。(174p)
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設備の運転維持は「手塩にかける」というのが大切。
適切に、程良く、加減良く。
そうするためには、その設備の内容をよく理解し、今現在の状況がどうなっているのか見えるようになっておく必要があると思っています。
そうすると、自分の運転する設備が可愛くなってくるんですよ。
設備も可愛がれば、それに応えてくれます。
すなわち、安全に安定に効率よく働いてくれる。
そしてそうしておくと、想定外の事態にも冷静に対応できるようになる。
臨機応変に対応できるようになるからね。
臨機応変にできるためには、設備の深い理解がないとできないのです。
だから学ぶことが大切。
学ぶために他の施設も見に行き、教えてもらう。
もちろん技術書やマニュアルも読み込む。
それを自分が運転する設備に反映していく。
要するに自分の仕事を愛するって、そういうことなんだと思っているんです。
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