2011年2月22日火曜日

知性とは恥じらいである


こんにちは

昨日は完成間近の脳科学神経回路遺伝学棟の監督員検査。
施工スタッフと一緒に丸一日かけて各所じっくりと検査です。
ぼくは「おもしろまじめ主義」ですから、真剣に検査をすると言ってもリラックスも忘れません。
にこやかに時には冗談を言ったり、雑談をしたりもします。
こういう方が返って施工スタッフたちに必要な事項が伝わるんですよね。
カリカリと、ここがダメ、あれを直せってことばかり言ってもダメなんです。
ぼくはプラグマティスト(現実主義者)ですから、多少不真面目でもおもしろまじめを貫くんです。

この建物にはマウスなど実験動物の胚を凍結保管する部屋があります。
卵細胞を液体窒素のデュワー(Dewar=魔法瓶)に漬け込んで、凍らせて保管するのです。
卵子や精子、受精卵の初期段階は凍結保存ができるのです。

その部屋のドアに「塩素ガスボンベ室」と書いてありました。
あやー、この部屋名称、違うよ~。
塩素じゃ毒ガスでみんな死んじゃうよ~。
それにボンベじゃないよ、デュワーだよー。
そこで「ボンベは和製英語で、外国では通じない」という、数年前に特定化学物質作業主任講習を受講したときに講師の方から聞いた話を披露しました。

酸素や窒素、プロパンなど高圧ガスを保管する容器を「ボンベ」と呼びます。
ガスボンベなんて言いますよね。
ガスgasは気体という意味の英語です。
ボンベも英語だと思って、この前職場で外国から来たばかりの研究者に設備を説明するときに「ボンベ」と言いました。
我ながら流暢な発音で^^;)。
ところがまったく通じない。
それどころか、「ボムbomb(爆弾)?」なんて聞き返されてしまいました。
確かにボンベは爆弾に似てないこともないなあ。

家に帰って辞書を引いてみると、ボンベのことを英語では<シリンダーcylinder>と言うのだそうです。
エンジンのシリンダーと同じく、肉厚の中空容器は何でもかんでもシリンダーなんですね。
つまり、ボンベは英語ではないのです。
日本でしか通じない和製英語のようなんです。
ではなぜ、ボンベと呼ぶようになったのか。
やはり爆弾bombと関係あるそうです。

明治時代、日本が初めて高圧ガスを輸入したときのこと。
もちろん船便です。
船から港へと荷役人(にやくにん)たちが荷物を下ろします。
荷役人って役人じゃないですよ。
荷役(にやく)=荷物の積み卸しを仕事にする人のことです。
暴力団山口組ももともとは神戸港の荷役人たちの集まりだったように、荷役人は荒くれ男たち。
稼ぎを増やすために、結構乱暴に荷物を扱っていたんですね。

中味の詰まった高圧ガス容器は手荒に扱うと爆発します。
そのことを港の荷役人に伝えるために、輸入元の外国人担当者が「下手に扱うと爆発するぞ!」という意味で、高圧ガス容器を指さして「bomb!」と言ったらしいのです。
それが荷役人の間で、容器そのものの名前だと誤解されたまま使われるようになり、やがてはそれが世間一般にも広まった。
広まる過程で、カタカナ語になり「ボンベ」と呼ばれるようになり、日本語として定着していったのだそうです。

こんな話を施工スタッフたちにして笑いと感心をとったりしつつ、検査も楽しく終えました。
とてもいい研究棟になりました。
愉快、愉快。

で、家に帰ってから念のためボンベをインターネットで検索。
すると「ボンベ【(ドイツ)Bombe】」と出てきました。
あちゃー、ドイツ語なのかよー、がせネタだったかも~。
あはははは。
まあいいや、この機会にもっとよく調べてみようっと。

内田樹『ためらいの倫理学』冬弓舎\2000-にこうありました。

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私たちは知性を検証する場合に、ふつう「自己批判能力」を基準にする。
自分の無知、偏見、イデオロギー性、邪悪さ、そういったものを勘定に入れてものを考えることができているかどうかを物差しにして、私たちは他人の知性を計量する。
自分の博識、公正無私、正義を無謬の前提にしてものを考えている者のことを、私たちは「バカ」と呼んでいいことになっている。(32p)
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昨日、「バカと言う方がバカ」と書きましたが、他人をバカにする人は「自分は間違っていない」ということを前提にしちゃっているんですよ。
だから平気で他人を罵倒できるのです。
本当に知性のある人は常に「もしかしたら自分の方が間違っているかもしれない」という留保を持っている。
だから、他人を罵倒するなんて野蛮なことはできない。
ためらいや恥じらいがあるからね。

自分は間違っていないと思い込んでいる人には「学び」はありません。
学ばないから当然、本物のバカになっていくんです。
ソクラテスが言うように、無知の知、なんです。
自分は無知かもしれないと思う謙虚な心。
それこそが人間らしい知性なんだと思います。



この写真が脳神経回路遺伝学棟。
利根川進センター長の意見をふんだんに取り入れて、これまでの日本にはないアメリカ~ンなステキな研究棟になりましたよー。

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