2011年2月9日水曜日

オトコの価値


こんにちは

関根眞一『となりのクレーマー』中公新書ラクレ¥720-を読んでいたら、

 クレーマーは年配の男性に多い。

って書いてありました。
ナルホド、ナルホド、分かりますよ。
ぼくの周りの40代、50代のおじさんたちの中にも、くだらないどうでもいい自分の趣味みたいなことをぐだぐだと言いつのったり、押しつけてきたりして、職場の雰囲気を悪くしている人がいます。
みんなから嫌われてるのにそれを止めようとしない。
困ったもんです。

同書にはこうも書いてありました。

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ある懇親会での出来事です。ひとりの法学系の教授が、こんなことを言いました。
「苦情の背景には少なからず、苦情申し立て者の経済的事由が存在する。
そのため、そのような要因が除去されれば、苦情は減少するであろう」(略)
では、社会に対して「格差意識」を持ってしまう年収のラインは、どの程度でしょうか。
もちろん、意識の問題ですから個人差が大きいでしょうが、くだんの教授によれば、一般的に若年層の単身世帯で年収400万円を超えると、精神的にゆとりができて穏やかになり、ほとんどトラブルにならないとのことです。(151-153p)
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なるほどねー。
クレーマーになってしまうおじさんは、「ビンボー」なんですよね、精神的にも実際にも。
それに対して自己評価が高すぎる。
高すぎる自己意識と、低すぎる現実のギャップががまんならない。
ネガティブコンプレックスになっている。
その鬱憤をクレームというやり方で解消しようとするんですね。

どんな人にも多かれ少なかれコンプレックスはあるものです。
でも真っ当な人間ならそのコンプレックスをバネにして、自分の能力を上げ、少しでも会社や社会に貢献できるようにし、皆から歓迎されるように行動するものです。
収入の低さがコンプレックスだったら、少しでも稼ぎを多くするようがんばらなくちゃね。
たしかに、自分の能力を上げたり、会社や社会に貢献したりして自分の評価を上げていくのは、大変な努力が必要だし、時間もかかります。

クレーマーにはそういう意識がないんですよ。
手っ取り早くお手軽に鬱憤を晴らしたいだけなんですね。
でもその戦術は間違っているし、損なだけなのにね。

もちろんクレームが建設的なものなら、会社や社会をよくしていくタネにもなります。
正しい意見としてね。
そういう真っ当なクレームなら、相手が誰であっても言うべきです。
ところがクレーマーは違うんです。
自分の言うことを聞いてくれそうな、弱い人に対してだけクレームを付ける。
決してそれに反論、反撃してきそうな人には言わないんです。
きっと自分でも自分が言っていることが理不尽で支離滅裂でとても社会には受け容れてもらえないだろうと分かっているんでしょう、少なくとも深層心理では。
だから相手を選ぶんでしょう。
常識的な価値観から言えば、卑怯者です。

理不尽なクレームを発し続けていると、当然ながら周りから疎まれ、孤立していきます。
誰がそういう人を評価したり、給料を上げたりするでしょうか。

給料などお金は自分の持つリソース=資源の一つです。
澤口俊之『なぜいい女はパッとしない男に惚れるのか?』アスキー新書\724-に面白いことが書いてありました。
男はどんなことに一番ストレスを感じるか。
それは脳科学の研究ではっきりしているんだそうです。
こういう研究している研究者がいるってことも面白いことですがねー。

で、男はどんなことにストレスを感じるかというと、それは、

 リソースを得られないこと

なんだそうです。

リソースとは「資源」「得物」という意味です。
たとえば、食べるもの、お金や家など財産、地位や名誉、妻や家族と言ったところでしょうか。
男性は、獲物や住処、領地などのリソースを獲得することを目的として進化してきたので、これらが得られない時の心的ストレスが大きいのは当然かもしれません。
つまり、「カネ」「権力」「オンナ」がオトコの価値なんですよね。
これを持っているかどうかで、オトコは幸せを感じられるか不幸になるかが決まる。
だから、カネがなく、権力をふるえる相手がおらず、オンナからも相手にされないオトコは、ストレスまみれになり不幸になってしまうというわけなんです。

オンナと言っても愛人、浮気相手という意味じゃないですよ。
女房や子どもなど、自分が守るべき存在って意味です。
オトコは女房や子どもなど「弱き者」を守ることにもアイデンティティを感じるのです。
それによって自分が「強い存在」であることを確認できるからです。
え?女房の方が強いって?
それじゃーダメだねー。
あはははは。

リストラで職を失った男性は、同じくリストラされた女性より自殺する人が多いそうです。
それはオトコの方がリソースを失ったことによるストレスが大きいからです。
お金が稼げなければ、食べるものを得られない、地位・財産も失う、名誉なんか絶対に得られない、まして女房や家族から軽蔑される、下手すると女房子どもに逃げられ捨てられる。
死にたくなるのも分かります。

40歳も過ぎる年代になると、変なクソオヤジが増えてきます。
クレーマーもその一種です。
42歳はオトコの厄年です。
厄年は「役歳」とも書きます。
これはオトコも42歳頃になれば、それまで自分を磨き上げ価値を上げて「役がつく」ような人間と、努力を怠ってきたツケを払わなければならない「厄がつく」ような人間と、二つにはっきりと分かれてしまうということなんです。

クレーマーおやじは嫌なことをやったり言ったりして、職場でも家庭でも嫌われる。
それは、ある程度の年齢になってもリソースを得られなかったからなんですね。
リソースを得られなかったおじさんが、卑屈になったり過度に弱気になったりするのは脳科学的に言っても当然なんです。

だから男性がストレスから解放されるには、上記のうち少なくとも一つでも持っていればいいわけです。
お金でも、名誉でも、妻や家族の信頼でも。
でも、男にとっての一番大切なセーフティーネットは妻や家族からの信頼なんだと、ぼくは思っています。
たとえリストラされてお金も地位も名誉もなくたって、妻や家族からの信頼が残っていればストレスに負けずに生きていける。
反対に日頃から女房の信頼を獲得することを怠ると、リストラされたりオトコのリソースを失うような事態に陥ると女房家族に逃げられるんです。
そしてますます卑屈なおじさんになってしまい、クレーマー化してしまうのです。

でもリソースは天から降ってくるものでも地から湧いてくるものでもありません。
自分の「努力」で獲得していかないとならないものなんです。
ここがオトコが生きるポイントなんですね。
それは厄年をすぎた40代、50代だって同じだし、それができるはずなんですよ。
努力によってオトコの価値を高め、厄年を役歳に変えていけるんです。
会社や社会からも認められ、女房子どもからも信頼されるよう努力を積み重ねる。
仕事も思う存分一生懸命やり、家族との時間も大切にする。
我が子(男の子)たちにも正しい「オトコの価値」を伝えていきたいものだと思っています。


昨日は筑波研に建設中の細胞研究リソース棟の受電でした。
ぼくもオトコの価値を高めるべく、がんばってきましたよー。

2011年2月8日火曜日

幸福とは何か


こんにちは

『安岡正篤 一日一言』致知出版社刊にこうありました。

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「さいわい」にも幸と福と二字ある。
学問的にいうと、「幸」というのは幸いの原因が自分の中にない、偶然的な、他より与えられたにすぎない幸いを幸という。
たまたまいい家庭に生まれたとか、思いがけなくうまいめぐり合わせにぶつかったとかいう、これは幸。
これは当てにならない。

そうではなくて原因を自己の中に有する、即(すなわ)ち自分の苦心、自分の努力によってかち得たる幸いを「福」という。

福という字がそれをよく表しておる。
示偏(しめすへん)というのは神さまのことだ。
示というのは上から光がさしている、神の光、叡智(えいち)の光を表す。

旁(つくり)は「収穫を積み重ねた」という文字だ。
農家でいうならば俵(たわら)を積み上げるという文字。
神の前に蓄積されたるものが「福」である。
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なるほど~、と思いました。
幸子という名の女は幸薄い、なんて昔から言われる。
それは待っているだけの「幸」はアテにならないってことなのかー。
待っていてもダメ。
自ら福を創り出す。
苦心、努力を積み重ねて福を創る。
すると幸もやってくる。
幸福は自分で勝ち得るものだったんですね。
漢字って面白い!

WhyよりHow


こんにちは

会計検査の検査対象が会計検査院から指定されるのは、検査1週間前。
急いで資料の準備をします。
と言っても既に完了した工事についての検査ですから、ほとんどの資料は揃っている。
それらをとりまとめて検査会場へ持ち込めばいいんです。
とは言っても人間のやる仕事、完璧はあり得ません。
念のため必要な書類に目を通します。

するとやっぱり不足している資料が見つかりました。
工事に必要な部材の単価を示すカタログのコピーがありませんでした。
この資料を作成した部下を呼んで、「この部材とこの部材のカタログのコピーが綴じ込まれていなかったから、来週月曜日までに用意してね」と指示。
まあね、なけりゃないでもかまわない程度の資料ですが、あれば安心感が違います。
少しでも不安要素はなくしておきたい。
何か不安に思うことが残っていると、堂々とした態度で検査に臨めませんから。
こっちが不安げにしていたら、検査員だってしなくてもいい探りを入れなくちゃならない気になる。
無駄ですからね。

ぼくから指示を受けた部下は。青ざめました。
さっそく施工者に電話して、「あの資料ないんだけど、何でかなー」なんて言っている。
おかしくて思わず吹き出しちゃいましたよ。あ、失敬。
電話が終わってからぼくはこう言いました。

 何でないのか、なんて今となったらどうでもいいことだよ。
 ないものは仕方がない。
 なけりゃ期日までに揃えればいいんだよ。
 まだ1週間残っているんだから、間に合うはず。
 ぼくら技術者は「Why」じゃなくて「How」なんだ。
 なぜ、と問うより、どうやって、なんだ。
 ピンチになったとき、それをどうやって切り抜けるかが大切。
 結果よければすべてよし、なんだからね。

Whyにこだわると、必要な期日までに必要なコトが終わらなくなります。
トラブルがあったとき、Whyにばかりこだわっている人は、犯人捜しにやっきになりがちなんですよ。
誰が悪かったからこうなってしまったのか、ってね。
でも犯人捜しをする人がたいてい悪い。
そいつは、自分は悪くないということを第一に言いたいがために犯人捜しをし、Why、なぜ!にこだわってしまうのです。
自己保身第一なんですな。

そんなことよりHowですよ。
どうやって今のピンチを切り抜けるか。
どうやっていい結果につなげるか。
それを第一に考えるのがエンジニアの心得のひとつだって、ぼくは思うのです。
結果がよければそれでオッケーなんです。
犯人捜しをするとしても、コトが貫徹してからやればいいんです。
もっとも、いい結果に終われば、誰が犯人かなんかあまり気にならなくなるものです。
無駄なことはしなくてもすみます。

「WhyよりHow」ってことは、『致知』’03年8月号、大谷由里子「第一線で活躍する女性」に書いてあったことを覚えていたから。
大谷さんは元吉本興業の芸人さんのマネジャー。
あの横山やすしのマネジャーでもあった人。
こんなエピソードが書かれていたんです。

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吉本興業では「やすし・きよし」の横山やすしさんや、当時売り出し中の「宮川大助・花子」などを担当しました。
横山さんにはわがままなイメージがあるようで、人には「大変だったでしょう」と言われます。
確かに、大阪で生放送に出演するはずなのにまだ地方の競艇場にいたり、「浮気がばれた。嫁が怒っているから姿を消す。オレに仕事をしてほしかったらおまえが嫁の機嫌をとってこい」って電話がかかってきたり、むちゃくちゃでしたよ(笑)。

でも、どんな仕事でも取引先や上司から無理難題を言われるでしょう。
それを無理難題と思うかどうかの違いです。
コーチングの基本に

 “発想を「Why」から「How」に変えよう”

という理論があるんですよ。
無理難題を言われて、「なんでそんなこと言われなあかんねん」と思ったら、もうそこで終わり。
あの頃、横山さんに何を言われても「どうする?」「どうやって解決する?」といつも考えていました。
それがいまとても役立っています。
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人間生きていればいろんなトラブルに遭遇します。
何でこうなのよ?!、どうしてオレがこんな目に遭わなきゃならないんだ?!、なぜオレがやらなくちゃならないんだ?!ってことばかり。
でも切り抜けなきゃならないんです。
やるしかない。
いつまでもWhyに拘わっていたんじゃ前に進めません。
だから頭の使い方をHowに切り替えるんです。
どうやったら上手く行くか、どうやって切り抜けるか、どうすれば何とかなるか、ってね。

これはエンジニアの処世術として使えると、ぼくは思いましたね。
だから覚えておくことにした。
覚えるだけじゃなくて、以来、実践してきました。
結果オーライにするためにはどうすればいいか、Howを中心に考え、行動するようにしてきました。

Whyには「行動」が伴わない。
行動しなけりゃ事態は好転しないんです。
悩んでいるうちに時間は過ぎ、何もしないから事態は悪い方へと転がりだし、よくない結果に終わります。
すると自分を守るために誰かを悪者にするしかなくなる。
犯人捜しが始まるメカニズムはこういうわけなんです。
そして誰かを恨み、自分の人生を台無しにしてしまうのです。

Howで考えれば、残された期間でしゃにむに行動することができます。
行動すれば事態は少しずつでも好転していきます。
完全に間に合わないこともあるでしょうが、ちょびっとでもよい方向へと向かうんです。
最悪の事態だけは避けられるんです。

「WhyよりHow」はエンジニアだけじゃなく、すべての人に役立つ考え方だと思います。
というか、すべての人は有限の資源(=リソース;人、金、モノ、時間)の中でよりよい人生を創っている存在ですから、すべての人はエンジニアでもあるんです。
ピンチに遭遇したとき、つい「なんで~?!」と思ってしまいがち。
その時、「どうやって」と考え方をチェンジしてみる。
そういう思考の習慣を持つといいですよ。

さて、スタッフの努力で足りない資料は検査前までに揃いました。
結局その資料は検査員にお見せする機会はありませんでした。
無駄な仕事だったかというと、そうじゃありません。
すべての資料がきちんと揃っていたおかげで、ぼくも堂々と検査を受検することができました。
検査もスムーズに進み、予定時刻より早く終了。
だから意味のある仕事だったと思いますよ。



写真は筑波研究所に建設中の細胞研究リソース棟。
いよいよ本日受電です。
今日も楽しくがんばってきますよー。

2011年2月6日日曜日

ハッピーな人生の創り方


こんにちは

買い物に行くとき、溌貴君、としきくんも自分のお小遣いを自分のお財布に入れて持っていくようにしました。
「無駄遣いしないように、使う分だけ持っていくんだよ」と教えました。
が、まだどのコインがいくらの価値を持っているのか分からないんですね。
としきくんは貯金箱から適当に出して、お財布に入れます。
溌貴君はもうちょっと考えて?、無駄遣いしないように小額のコイン、1円玉とか5円玉を中心にお財布に入れるんです。
だから、昨日なんか58円しか入ってない。

お店に行って、それぞれのお財布にいくら入っているのか数えてあげます。
欲しいおやつ(たいてい食玩)を選んでは、「これ買える?」って確認します。
「う~ん、買えないなあ」って答えます。
58円じゃあ買えないものだらけです。
とうとう半べそ状態に。
かわいいね~。

結局100円のお菓子にして、足りない分は足してあげました。
「無駄遣いしなくてよかったねー」と言ったら、にっこり。
「まだ家に2000円もあるもんね!また買いに来れるしね!」だって。
よろしい、よろしい、大変よろしい。

『致知』2003年8月号に載っていた大谷由里子(プロデューサー)の言葉を紹介しますね。

  コーチングをする側の人間は、
 金銭面も含め幸せでなければならない

コーチングのとき心がけるべきことは何か?と問われて、大谷さんはこう言います。

  まず、自分が幸せであることですよ。
  自分の心に余裕がなければ、心から他人を認め
  応援することはできません。

心の余裕を生むのは、蓄えと自制だとぼくも思います。
お金はもちろん、知識や経験、心持ちもそうですね。
お金や知識のストックがあり、それを無駄に使わない。
お金や知識に余裕がない人ほど「オレが、オレが」と自分勝手で人を蹴落とし、足を引っぱることしか考えない。
それじゃあ、ハッピーで楽しい人生を築けません。
そういうことを少しずつ体験を通して子どもたちに教えていきたい。
心に余裕を持って常にハッピーな状態を維持し、他の人を認め、応援できる人間に育ってほしいと思います。

2011年2月5日土曜日

寒いときには温泉湯豆腐が効く!


こんにちは

立春を迎えてちょっと寒さが緩んできたと思ったら、また来週から寒くなるみたいですね。
寒い時期に「湯豆腐」は美味くて、体が温まります。
こんな変わり種の湯豆腐があります。

 佐嘉平川屋の温泉湯豆腐
  http://www.saga-hirakawaya.co.jp/hirakawa/onsen.html

水の代わりに温泉水を使うのがミソ。
煮ているうちに豆腐の表面が溶け始めるんです。
とろけた豆腐の美味いこと!
そして豆腐の溶けた汁も美味い!

送料無料のお試しセットもあります。
http://www.saga-hirakawaya.jp/shopdetail/011001000002/order/

ちょっと贅沢ですが、たまにはこんな美味しさもハッピーですよー。
心と身体を温めてくれます。
ぜひぜひどうぞ!

2011年2月4日金曜日

大過なく生きる


おはようございます

長い出張からようやく家に戻り、夕べは家でぐっすり眠れました。
何の迷いもなく、不安もなく、家族と一緒にぐっすり眠れるってとってもハッピーですね。
外国のことわざに「よく働いた一日はよく眠れる。よく生きた一生はよく死ねる」というのがあるそうです。
播磨での会計検査も無事終えて、よく働いたからね。
こうした日々を一日、一日と重ねて、最後はよく死にたいもんです。
って、孫の顔を見るまではまだまだ死ねませんがねー。

今回の会計検査もちゃんと予習をして臨みましたよ。
今回の検査対象はXFEL実験研究棟の設計変更契約についてです。
なぜこのような変更が必要で、なぜこれだけのお金をかけなくちゃいけないのかをしっかり説明できればいい。
要はロジックですね。
もちろん、建物に関する検査ですので実際の建物に設置した「モノ」との照合も大切です。
設置されているモノが図面や予算書と合致しているかどうかも問われます。
会計検査は原則<書類検査>ですが、疑義があれば現地確認することもあるんです。
月曜日に現地入りしましたが、いつもより半日早く到着して、他の仕事の合間に検査対象の建物を見てあるき、何がどこにあるか記憶するよう努めました。

検査時間は有限ですから、ポイントとなる部分を重点的に検査されます。
そこがしっかりしていれば、あとの細々したところまで検査されることはないのです。
逆に言えば、ポイントとなる部分が曖昧だと、細々したところまで突っ込まれてしまう。
人間のやる仕事ですから完璧なんてあり得ません。
細部まで根掘り葉掘りやられたら、小さなミスくらい発見されてしまうものです。
そうなると、ねちねちと検査が続いてしまい、なかなか終わらなかったり、宿題が出たり、霞ヶ関に出向かなければならなくなったり、最悪国会に報告され新聞ネタになってしまいます。
その対応のための仕事が増え、貴重な自分の時間が奪われてしまいます。
検査翌日に、朝から神戸計算科学研究機構での打合せを入れていたので、是が非でも当日でカタを付けたかった。
その日のうちに播磨から神戸に移動しておかないと間に合いませんからね。
そのための予習、準備を怠りなくやりましたよ。

では、ポイントとなる部分とはどこか。
検査員の立場、気持ちになってみれば分かります。
今回の場合「設計変更契約」が検査対象ですから、大きく変更したところに決まっています。
たくさんお金をかけて変更した部分ですね。
先ずはそこを検査するのが常道でしょう。
だからそこはしっかりと準備するわけです。
予習とは「山はり」ですからね。全方位まんべんなくやってもダメなんです。
ポイントとなるところはどこか当たりを付け、そこを念入りにやる。
今回の場合それは、実験用のボーリングアース、中央監視ホストソフトウェア追加、DLPプロジェクタの3点でした。
そこに力をいれて準備したんです。

たとえば、実験用ボーリングアースは研究者からの「クリーンで独立したアースが欲しい」というリクエストをもとに、岩盤を地下70mまで堀抜いてアースを打ちました。
これを説明するために、大地抵抗率の説明資料を用意し、半球法による接地等価面積の積分計算書を作り、地盤が岩盤である場所でクリーンで独立したアースを得るためにはボーリングアースしかないことを示し、施工要領書や施工写真、試験成績書をもとにかかったお金に必然性があることを納得してもらう。
説明するときのストーリーも考えながら準備するんです。

小宮一慶『あたりまえのことをバカになってちゃんとやる』サンマーク出版¥1400-から引用します。

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病気になって、それを克服したからといって、けっして偉いわけではありません。
人は病気を克服した人を偉いともてはやしますが、病気にならずに生きている人のほうがずっと偉いに決まっているではありませんか。
病気を逆境にたとえると、逆境を乗り越える人は偉いが、もっと偉いのは逆境に陥らない人です。
世の中には、道を歩いているときに、わざわざ危ないところを歩く人がいます。
そういう人は事故にあいやすい人です。
でも安全なところを歩けば事故にあう確率を減らせます。
その安全な場所を分かっている人が一番偉いわけです。(201p)
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「大過なく過ごす」という言葉があります。
これを何もしないことによってトラブルに遭わないようにする、と解釈する人が多い。
定年間際に校長先生になった人とかね。
でもそれは間違いだと思います。
いろいろなことにチャレンジするんだけど、ちゃんと予習をして、予めトラブルを回避する算段をする。
危険な場所を予知し、それを避け、安全な道を歩くんです。

その結果として「大過なく」が実現できる。
そういう毎日を送れれば、毎晩ぐっすり眠れるし、死ぬときに「いい一生だった」と言えるんじゃないかなって思います。


まだまだ寒いですが、播磨の空も春めいてきました!

2011年2月1日火曜日

記憶力が未来を創る!


こんにちは

今週は会計検査のため播磨に出張しています。
我社のように国税で運営している法人は、予算を適切に無駄なく執行しているか会計検査院の検査を受検することが義務付けられているのです。
ぼくの仕事は新たな研究施設を建設することです。
建設するためには何億円、何十億円、時に何百億円ものお金を使いますから、しばしば検査対象になるんです。
検査と言っても恐いものではありません。
普段から嘘偽りなく誠実にやっていれば、問題になるようなことはありません。
とは言え、受検する上での重要ポイントがあります。
それは、

  自分のやった仕事をきちんと記憶しておくこと

です。
なぜそうしたのか、どうやってそれをしたのか、仕事の内容と意味を把握しておくのです。
もちろんすべてを丸暗記にはできませんが、資料のどこにそれが記録されているかくらいは頭に入れておく。
きちんと記憶しておけば、検査員からの質問にスッと答えられます。
あるいは、スッと目的の資料を提示できる。
こうなれば検査員もイライラせず、安心することができます。
仕事の要諦は、相手を安心させることですからね。
そうすると、ポイントとなる部分だけ突っ込んでチェックすれば、他の部分も同様にきちんとやっているはずだと思ってもらえます。
検査もスッと終えることができ、お互いハッピー。

池谷裕二/木村俊介『ゆらぐ脳』文藝春秋¥1238-にこうありました。

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海馬は記憶を担当する脳の部位ですが、最近、海馬は未来予測のために必要な部位でもあると判明しました。
海馬が破壊されたら記憶ができなくなることは周知の認識でしたけど「記憶がなくなれば、未来の予測ができなくなる」という研究成果が提出されたことは大きかったのです。(231p)
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これはとても興味深い研究成果です。
病気や怪我、脳手術の後遺症などで、記憶ができなくなる人がいます。
あるいは認知症などで記憶力が衰える。
そういう患者さんは、新しいことを覚えたり過去の記憶が思い出せなくなるだけでなく、未来のことを予測することができなくなってしまうんですね。
自分はどうなりたいのか、どうしていきたいのか、記憶ができないとそういう事もできなくなってしまうんです。

未来予測はもともとは危険回避のために必要だった能力でしょう。
危ない目にあったこと、身の危険に遭遇した経験を記憶しておく。
そうすると次からはそういうリスクを回避した行動がとれるようになる。
よって生き延びるチャンスが増える。
記憶を司る脳部位、海馬が破壊された人はそのような危険回避ができなくなってしまうのです。
かなり危ないですよね。

それは健康な人にも当てはまるのではないでしょうか。
いろいろなことを記憶しておける人のほうが、リスクに対する対策ができる。
自分自身の経験だけでなく、誰かが危ない目にあったところを見聞きしたことでも自分の記憶に納められる。
本を読んだことでさえ、自分の生き方に反映していける。
すべて記憶があるからです。

脳はメモリーベイスドアーキテクチャであることが、脳研究で分かってきています。
メモリー=記憶、ベイスド=基づいた、アーキテクチャ=構造です。
記憶がなければ考えることもできないのです。

未来は危険、悪いことばかりじゃありません。
未来には「夢」だってあります。
自分にとって良いこと、楽しいことを実現したいという思いは、誰だって持っているはずです。
けれども海馬が破壊された人は、夢を見ることも傷害されてしまうのだそうです。
それは記憶が傷害されるからなんです。

いい仕事をする人はすべからく記憶力が抜群です。これは間違いない。
ビルゲイツの記憶力のすごさは有名です。
ぼくも仕事でたまに高級官僚の人と打 ち合わせる機会がありますが、その記憶力は尊敬に値します。
彼らはその記憶力を活用してバリバリ仕事を進めているわけです。

リスクを回避し、楽しい未来を夢見て、それを実現するためには記憶が充実していないといけないんです。
そこに「勉強する意義」があるんだと、ぼくは思います。
たくさん本を読むこと、いろいろなところへ行くこと、多くの人と出会うこと、みんなみんな記憶のためであり、よい未来を実現するためなんです。
だから子供の頃はもちろん、大人になっても、何歳になっても学び続けなくちゃいけないんです。

最近の学校教 育の風潮では、記憶力は軽視されているように思います。
暗記して何になる、暗記しても役に立たない、暗記より想像力だ、なーんてね。
確かに学校で習うことを暗記しただけじゃ、役に立ちま せん。
暗記したものを応用することができないと意味がない。
でも、応用は学校で教育しづらい、不可能なものです。
それはやっぱり社会に出て、現実に仕事を したり社会で揉まれてみないと磨かれない能力です。
学校にそこまで期待してはいけませんよ。
学校ではその前段となる部分、すなわち記憶力を鍛えているのだ、と考えるといい。

入試でも暗記問題が出題されます。
青色LEDの発明者中村修二さんは「入試はちょーウルトラクイズだ」なんて言っています。
でも中村さんにしても、あの膨大な著作を次々と出版しているのを読めば、ものすごい記憶力の持ち主だと分かります。
日 亜であったことを事細かに記憶しているから、ねちねちとあれだけのものが書き続けられる。
もちろん、青色LEDを発明するのだって中村さんの全くの独創で はなく、過去のいろいろな研究者たちの研究結果の上に成し遂げられたものでしょう。
また、毎日の実験で失敗したこと、成功したことを反省して、次の実験を デザインする。
つまり、ちゃんと必要なものは記憶して、その上に自分の研究を積み上げることができたから、青色LEDを発明することができたんだと思いま す。
それはきっと、大学入試のための「クイズ」でも鍛えられたんだと思うのです。
中村さんだって難関徳島大学にちゃんと入学したわけですしね。

入試で記憶力が試されるのはなぜか。
記憶力に長けた 学生を入学させたい、記憶する回路を脳に持った学生を入学させたい、という趣旨で暗記問題が出題されるのだと思うのです。
記憶力は学問を積み上げていくの に必要な能力と認めていたのだと思います。
それが、暗記学習の<立法事実>だったのだと、ぼくは思うのです。

学生諸君、暗記をバカにせず、記憶力を鍛えておきなさい!