2011年7月10日日曜日

超高純度のつくり方


こんにちは

冷蔵庫でシャーベットを作ると水っぽくなっちゃいますよねー。
あれはどうしてなんですか?

先日の実験教室でドライアイスシャーベットを作ったとき、あるお父さんから聞かれました。
確かに、冷蔵庫でジュースを凍らせても美味しいシャーベットができないのです。
氷になった部分はすごく水っぽくなって、美味しくない。
かつ、どろどろの液体が凍らずに残ります。
このどろどろの液体はジュースが濃くなったものです。
つまり、冷蔵庫でシャーベットを作ろうとすると、水とジュースの成分が分離してしまうのです。

冬の朝、水たまりの表面が凍っているのを見たことがありませんか。
水たまりは泥水です。茶色く濁っています。
細かい土が水の底に沈まないで、溶け込んでいます。
ところがその泥水が凍った氷を取り上げてみると、透明できれいなんです。
氷の中に泥があまり入っていないのです。
泥はどこに行ったかというと、凍らない水の部分に集まってしまうのです。

この現象を応用したのが「高野豆腐」です。
豆腐を冬の寒い夜に凍らせると、豆腐の成分と水とが分離するんです。
フリーズドライ食品の製法も同じですね。
凍らせる=フリーズさせて水と分離し、成分だけを乾燥させたものなのです。

このように、何かが溶け込んだ水を、凍らせることによって分離することができます。
この現象を「偏析(へんせき)」と言います。
偏析現象は成分を分離し、濃度を高めるために役に立つんです。

トランジスタやLSI、LEDなど半導体製品には、超高純度のシリコンが必要です。
シリコンを超高純度にするためにも、偏析現象が使われています。
純度の高くないシリコンをるつぼの中で溶かします。
それを底の方からゆっくり冷やして固めます。
すると不純物はまだ固まっていない部分へ分離していきます。
最後には全体が固まりますが、最初に固まり始めた底の方の純度は高くなり、不純物は最後に固まった表面近くに集まります。
なので、表面近くを切って捨てます。
たった1回のこの操作で、シリコンの純度は100倍くらいになります。
さらに純度を高めようと思ったら、表面近くを切り捨て残った底の方だけ使って、再度同じ操作を繰り返します。

けれどもこの操作を続けると必然的に得られる純度の高いシリコンは、どんどん小さくなってしまいます。
捨てる部分が多くなっていくからです。
それでは無駄ですし、最終的な材料価格も高くなってしまいます。
材料価格が高ければ、大量生産できませんし、広く世の中で使われることもなくなってしまいます。

それを解決したのが、ベル研究所の研究者だったブファン。
彼が「ゾーン精製法」というやり方を発明したんです。
そのやり方はこうです。
長方形の容器に材料を入れます。
容器の端の部分、幅2~3cmだけ加熱して溶かします。
この溶けた部分を「ゾーン」と呼びます。
この溶けたゾーンをゆっくり静かに、長方形の長辺に添って移動させていくのです。
こうすると、溶けた部分が再び固まるときに不純物は偏析されます。
不純物だけがゾーンに溶け残ります。
ゾーンが容器の反対側まで到達したら、今度は逆方向に移動させます。
ゾーンが容器の端から端まで、右から左へ、左から右へと行ったり来たりするうちに、不純物はどんどんとゾーン部分だけに集まってくるのです。
3往復、すなわちゾーンが6回通過すると、その部分の純度は99.9999999~99.99999999%にも高められるのです。
そして最後は不純物が集まったゾーン部分だけを切り捨てる。
ゾーンは幅2~3cmですから、切り捨てる部分は全体の5~10%程度に抑えることができ、その他の90~95%の部分全部が、半導体材料として使えるものが得られるのです。

偏析現象って面白いでしょ。


偏析現象については、菊池誠『若きエンジニアへの手紙』工学図書\2100-を参照しました。

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