2013年7月11日木曜日

プロエンジニアの心得三ヶ条 その2

夜中に、カサコソという音がして目が覚めた。
照明を付けると、ゴキちゃんが遊んでた。
あー、今年もホイホイの季節になったか-。買ってこなくちゃ。
おかげですっかり目が覚めちゃったぞ。
目が覚めちゃったんで、先週やった講演のことでも書いておこうか。

最初は理研の紹介をちょこっと。
理化学研究所以外に「りけん」の名を聞いたことがある人もいるだろう。
リケンのワカメスープとかね。
理化学研究所は大正6年に設立された、日本で最初の自然科学の総合研究所で、もうすぐ設立100年になる。

戦前(太平洋戦争前)は、研究によって生み出された成果、発明を企業化していた。
理研が発明したものは、ビタミンAとかアルマイトとか現在でも使われているものが多い。
そしてその収益によって、また研究をしていたのだ。
その頃の企業が今もリケンの名を残している。
ワカメスープは理研ビタミンという会社。ビタミンA製剤を作っていた会社だ。新潟で地震があったとき、リケンというピストンリングを製造している会社が被災したため、世界中のエンジンメーカーがエンジンを作れなくなってしまった。その会社も戦前の理研で発明されてピストンリングを製造していた理研ピストンリングという会社だ。
コピー機のリコーも、元々は理研感光紙という会社で、設計図によく使われていた青焼きの紙を製造していた会社。
皆さんもお世話になったかと思うけど、オカモトリケンというコンドームのメーカーもそう。
で、笑いを取って、つかみはおっけー。

続けて、現理事長である野依先生について。
野依先生がどんな業績によってノーベル賞をもらったか、ご存じか。
有機化合物の不斉合成の発明である。
有機化合物には同じ分子式だけど、光学的な異性体が存在する。L型とd型。高校の化学で習ったと思う。
人間や生物体の中で使われる有機分子は、L型だけ。d型は受け付けない。
たとえば、ミントはL型は爽やかな味と香りだけど、d型は苦くて食えたもんじゃない。
普通に化学合成すると、L型とd型が等量ずつできてしまう。
これでは使えない。
分子式が同じなので、分離も難しい。

野依先生が発明したものを、ぼくらは毎日のように口にしている。
たとえば歯磨き粉に入っているミント。ハッカの味だね。
ミントは今やほとんど全部が合成されたものになっている。
昔はハッカを、北海道北見とかで栽培して、そこから抽出していた。
製造に手間暇かかったので、高価なものだった。
野依先生はL型だけを合成する触媒を発明したんだ。
ミントも触媒によってL型だけを工業的に合成できるようになった。
合成香料と言うが、野依先生のおかげで日本は合成香料の分野で世界シェアトップなのだ。

皆さんは缶コーヒーをよく飲むだろうか。
ふたを開けたときのコーヒーの香りがナイスだ。
だがこの香りも合成香料。本物のコーヒー豆は、一缶あたり数粒しか使用していないそうだ。
L型を合成する技術は、医薬品にも応用されている。

このように野依先生の発明は、非常に役に立っている。
野依先生はもともと工学部工業化学の出身だ。
その意味でぼくは野依先生をエンジニアだとも思っている。

理研は研究だけをしているのではない。
世界トップの実験施設を、日本の研究者に提供している。
研究インフラを提供することも、理研の重要な役割なのだ。

科学の知識を用いて仕事をしている人が科学者である。
科学者は、大きく研究者と技術者に分けられる。
研究者の仕事は、夢を見つけること。
技術者の仕事は夢を実現すること。

ぼくは技術者である。
ぼくがこれまで理研で造ってきた施設。
和光RIBF加速器。
横浜NMR施設。
播磨XFEL「SACLA」。
そして神戸スパコン「京」。
これらの施設は、世界トップクラスの研究インフラを日本の大学や研究機関の研究者、企業の研究者に提供するものである。

その意味で、「技術が科学を発展させる」という自負を持って仕事をしてきた。技術がなければ科学の発展もないのである。
ガリレオが地動説を確立できたのは、望遠鏡の発明によってである。
望遠鏡という技術がなければ、ガリレオは科学的発見をなすことができなかったであろう。
ガリレオがすごいのは、その望遠鏡を天に向けたこと。
望遠鏡は地上にある遠くのものを見るために発明されたのだろうが、それを使って月や惑星を見ようと思ったのはガリレオ以外いなかった。
技術を思いもしなかったことに使う。
それが大発見の原動力なのだ。

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