2013年7月17日水曜日

プロエンジニアの心得三ヶ条 その4

ぼくはずっと、プロフェッショナルでありたい、と思って仕事をしてきました。きっと皆さんも同じでしょう。
では、プロって何でしょうか。
皆さんはどう思いますか。
ちょっとノートに、プロとは何かを、ズバリひと言で書いてみていただきたい。1分間でどうぞ。

はい、1分たちました。
では聞いてみますよ。
あなたはどう思いましたか。

「自分の仕事にプライドを持って取り組む」

なるほど。
この方の意見に賛成の方。
おお、いらっしゃいますねー。

あなたはどうですか。

「責任感を持って仕事する」

素晴らしいですねー。
賛同する方?
たくさんいらっしゃいますね-。
素晴らしい。

ありがとうございました。
ちょっと抽象的だったので、少し具体的に○×問題にしてみましょうか。

 プロは完璧を目指す
  ○ or ×

さてどうでしょうか。
ノートに自分の考えを、○か×、書いてみてください。

○と思う方、手を上げてください。
ほぼ2/3くらいですね。

×と思う方?
数人いらっしゃいますねー。

手を上げない人もいますね。いけませんねえ(笑)。

ぼくの考えはこうです。

 ×

NK設計さんってご存じですよね。
日本で一番優れた設計会社です。
20年前、ぼくが理研に入って最初に造った大規模研究棟の設計はNK設計さんにお願いしました。
その当時、ぼくも純真でしたから、NK設計のエンジニアはきっと完璧な仕事をしてくれるんだろうと思っていました。

ところがまったく違ったんです(会場、爆笑)。
ちっとも完璧じゃない。
えー、なんでもっとちゃんとやってくれないの?と思いました。

ちっとも完璧じゃない、でもダメでもないんです。
仕様通り、基準通り、図面通り、押さえるところは押さえている。
ギリギリ合格点は取っているんです。
だから発注者として文句は言えない。
何となくモヤモヤするんですが、もっとやってよとは言えない、言わせない。
ああ、これがプロってものか、とわかりました。

東工大工学部教授だった今野浩先生は、こう言っています。

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工学部における有能さの条件は、“拙速”である。
100%完璧を期すと100時間かかるが、95%で良ければ50時間で済むような場合、100%ではなく95%を目指し、残りの5%は問題が指摘されたときに追加・修正する。
これが拙速の意味するところである。
今野浩『工学部ヒラノ教授と七人の天才』より
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学生だった頃を思い出してください。
テストで、小学生なら100点を狙って100点を取ることができたでしょうが、中学生以上になるとなかなか100点は取れません。
100点を取ろうとすると、細々とした枝葉末節まで勉強しなくちゃなりません。
するとものすごく長い時間勉強しなくちゃならなくなる。
80点、90点でよいなら、さほど勉強時間は必要ないのです。

仕事も同じだと思うんですよ。
時間は無限にはありません。
完璧にやろうとするから、細々としたどうでもいいことまで、長い時間かけてやらなくちゃいけなくなる。
80点、90点、合格点を取ればいいんですよ。

ぼくらエンジニアは、右手で理想を、左手で金を握っています。
金というのは資源ということです。
お金、時間、人。
それらは有限なのです。現実ですね。
理想を持つことは大切ですが、現実も大事。
両者のバランスが重要。

先進国の労働者の、労働時間あたりのGDPのグラフを見てください。
労働生産性ですね。
日本はアメリカの2/3しかありません。
あのちゃらんぽらんなイタリアーノより低いんですよ(会場、笑)

これは日本の労働者が完璧主義だからだとぼくは思います。
必要以上に完璧を求め、長時間労働をする。
必要以上の完璧を目指すと、枝葉末節にかける時間が長くなります。
枝葉末節はお金になりにくいんですね。
それで労働生産性が落ちているんだと思うんです。

アメリカなどは、割り切りがいいんでしょう。
合格点は確実にきちんと取る。
でも完璧は求めないんです。
合格点を取るためには、大筋、根幹部分はきっちり押さえておかなければいけませんよね。
大筋、根幹はお金になります。
顧客は、大筋、根幹がしっかり出来ていればちゃんと支払いをします。

社員が完璧を目指して長時間労働をする。
残業もたくさんする。
経営者側からすると、金にならない仕事をしている、と見えるわけです。
それでも残業代は支払わなくちゃいけない。
ブラック企業じゃないからね(笑)。

長時間労働は、皆さん自身も疲弊させます。
健康を害することもあるかもしれません。
病気にでもなったら、ご自身も、ご家族も、会社も、社会も困ります。
損失です。

だからぼくは「拙速主義」です。
完璧主義は、怠惰の隠れ蓑だと思っています。
そして定刻主義。
期日までにきっちりと合格ラインは押さえる。
それがプロフェッショナルの仕事の仕方だと思っています。

ただね、合格点ぎりぎりじゃあ面白くありません。
それは「よい仕事」とは言えない。
ぼくは発注者監督員の立場ですから、やはりエンジニアのみなさんによい仕事をしてもらいたいわけです。
だから、プロにあと+10%の力を出してもらう、ことを狙います。
完璧は求めませんが、あと1歩か2歩、10%の力を出してもらいたいわけです。
そのための条件を整えるのが、発注者監督員の最大の仕事だと思っています。

仕事の楽しみは以下です。

・お金がたくさんもらえる
・腕が上がる
・仲間が増える

このどれかが満たされれば、プロのエンジニアは力を出してくれます。
ぼくの立場では、お金をだくさん出すのは難しいですが、少なくとも相手に損をさせないようにコントロールはします。
仕事のムダは、ほぼ二度仕事、二度手間によって生まれます。
スタッフが二度仕事をしないよう、配慮してきました。

プロのエンジニアの皆さんだって、合格ギリギリの仕事ばっかりやっていたら面白くないはずです。
時には全力を出したいと思っているはずです。
腕を上げたいと思っているはずです。
良い仲間と仕事をしたいと思っているはずです。
ぼくは発注者監督員として、ここに配慮してきたつもりです。
プロの人たちにあと10%いい仕事をしてもらうために。

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