2011年5月7日土曜日

お行儀の良さが教育効果を上げる


こんにちは

学級崩壊など教育困難な学級が増えているそうです。
そういうと、教師の指導力が劣っているからだ!、と目くじら立てる人も多い。
確かに、指導力の足らない教師もいますし、少なくとも男女雇用機会均等法施行以来、それ以前より学力の劣った教師が増えているのは行動経済学の研究でも分かっている。
でも、学力=指導力でもないわけです。
学力が劣っていると言っても、小学生、中学生に教えられる程度のレベルは担保しているのは、以前と変わりありません。
(もし、自分が学力が劣っていることに強いコンプレックスを持っている先生がいたとしたら問題もありますが)。

学級崩壊の原因は教師の側の問題だけではありません。
教育は、教師と生徒との相乗効果なんですから。
いくら教師が素晴らしい人でも、生徒の側に先生を尊敬する気持ちがなければ、いい教育はできないのです。
ウマを水飲み場に連れて行っても、ウマが水を飲まなければダメですよね。それと同じ。
逆に、教師が並、あるいは並以下であっても、生徒の側に先生の話をよく聞いてしっかり勉強しようという気持ちがあれば、よい教育になっていくのです。
ほとんどの教師は善良ですから、子どもが自分の言うことをよく聞き、しっかり勉強しようとしていれば嬉しくなります。
嬉しくなれば、子どもの期待に応えようと思うはずです。
授業の方法を工夫したり、学習内容をより深く学んで授業に望めば、子どもたちも嬉しくなりもっと勉強するようになる。
そういうゴキゲンなプラスのフィードバックが働くようになります。
並の教師、並以下の教師であっても、並以上の教師に育っていくのです。

教師だけではありませんが、人間というものは「完成品」ではないのです。
何歳になっても未完成。
これからよくしていくのか、ダメになっていくのかだけなんです。
そして、よくしていくのもダメにしていくのも、関係する人たちからの影響が強い。
自分が少しでもよくなるように関係性を造っていくのが人生だと思います。
もちろん教師は大人ですから、子どもより先に何かを実践しなくてはいけません。
いい授業をしたいんだ、というところを子どもたちに示して行かなくてはね。
そして子どもたちもそれに応えようとしなくてはいけないのです。

ですから、学級崩壊の原因を作っているのは子どもの側でもあるのです。
子どもがハナから先生の言うことを聞かない。
先生ががんばってもそれを認めない。
バカにしちゃっている。
だから授業の邪魔をするんです。
すると授業は成立しなくなり、学級崩壊に至ってしまうのです。

ひとりの子どもが授業を邪魔しない確率をpとします(0<p<1)。
たとえば0.98とかね。
学級の子ども全員が、2%くらい授業妨害という態度を取ると仮定します。
学級の子どもの人数をnとすれば、全員が授業を妨害しない確率は

 p^n

になります。
そして、誰か一人でも授業妨害をする確率も計算できて、

 1-p^n

になる。
p=0.98、n=30人とすると、学級の児童の誰かが授業を妨害して、授業が成立しない確率は、

 1-0.98^30=0.45

にも下がってしまうわけです。
ぼくも若い頃、公立中学校で臨時講師をしていましたが、たった一人のツッパリ君が教室を抜け出したために、それを追いかけねばならず、ちっとも授業にならなかった経験があります。
そのくらい子どもの授業への参加度が、授業を成立させ、教育効果を上げるためには重要なんです。

小学校低学年の子どもなら、お行儀の良さ、と言ってもいいでしょう。
お行儀のよい学級の子どもの学力は向上します。
一般に私立小学校の子どもの学力が高いのは、選抜によって頭がよい子どもを集めているからというより、お行儀よく授業に参加するからなのです。
小学高学年、中学生くらいになると、ダメな先生をバカにするような子どももいます。
教師だって組織人ですから、やっぱりちょっとはダメな人もいるのは当然です。
その時その生徒がどんな態度を取るか。
反抗的になり授業妨害をし、クラス全員の教育効果を阻害してしまうのか。
あるいは、そんなダメ先生は無視して、授業中に内職して自学するのか。
ダメ先生の授業でも、少なくとも授業妨害しないということが全体合理なんです。
ダメ先生だって、全員の生徒にとってダメとは限りません。
ちゃんと授業を受ければ、何かしら得ることもあるはずです。
授業を妨害して、他の生徒が受け取れるものも受け取れないことになるのは、損失でしかありません。

授業の邪魔をしない、とは、騒いだり、教室から抜け出したり、私語でうるさくしたりするだけではありません。
くだらない質問もしない、ということも含まれます。
時々いますよね、熱心で真面目な生徒なんですが、分かり切ったことを授業中に質問する。
一般常識的なことだったり、復習をしっかりやっていれば分かることだったり。
あいつが手を挙げるとうんざりするよ、って生徒、いるでしょー。
こういう質問も授業を邪魔します。
こういう質問はやるとしても授業外、休み時間にするべきなのです。
なぜなら授業は「公共」のものだからです。
質問は自分のためだけにするのではなく、他の生徒にとっても有益でなければならない。
誰もが分かり切ったようなことは、公共の場である授業中に質問してはいけないのです。

だからここでもお行儀の良さが教育効率を上げると言えます。
ここでのお行儀の良さとは、予習、復習をしっかりとやるということです。
学校の勉強の他に、いろいろな経験をし、いろいろな人と関わり、多くの本を読み、一般常識を身に着けることなのです。
今受けている授業のポイントがどこなのか、それが分かるようになっておくこと。
すると自分が理解できないことの中から、この授業で質問すればそれが解決し、他の生徒にも有用となることは何かが分かるんです。


以上の議論は、荒井一博『学歴社会の法則』光文社新書\740-を参照しました。


写真はSPring8でやった、ぼくの科学のお話会の様子。
みんな楽しそうでしょー。
みんながしっかり聞いてくれると、ぼくもゴキゲンになって、少しでもいい話をしようと思うわけです。
相乗効果なんですよ、教育は!

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