2009年2月2日月曜日

インフルエンザと天然痘

こんにちは

種痘法を発明し、天然痘の治療を実現したイギリスの医師エドワード・ジェンナー。
ぼくが子どもの頃、確か道徳の授業でだったと思いますが、ジェンナーが自分の子どもに注射をして効果を確認した、と習った記憶があります。
ところが、谷口克『免疫の不思議』岩波科学ライブラリー\971-を読んだところ、なんか違うんですよ。
最初の人体実験は、自分子どもではなかったそうなんです。

乳搾りの娘が天然痘にかからないことに注目したジェンナーは、先ずサラ・ネルムズという娘さんに牛痘を接種してみたのだそうです。
牛痘が人に感染しても、水疱はできるけれど重い病気にはならないことを証明してみた。

その次に実験したのは、自分の子じゃなくて、近所の少年ジェームス・ヒップスだったんです!
ジェームス君に牛痘を接種したあと、数ヶ月後にホンモノの天然痘を感染させてみた。
ジェームズ君はみごと天然痘を発症せず、種痘法の有効性を証明したんです。
これが真実の歴史!

それにしても、ジェンナーはどうやって他人の家の子どもを実験台にすることができたのでしょうか?
さらに、道徳の授業でウソを教えられちゃって今まで信じていたぼくって??
さらにさらに、そういうウソを教えちゃう道徳って道徳的なの?

それはそれとして、こうしてジェンナーのおかげで、天然痘ワクチンが発明されました。
以降、天然痘ワクチンは世界中の人々が接種するようになりました。
天然痘ワクチンを接種した人は、絶対に天然痘に罹患することはなくなりました。

さて、天然痘はウイルスによって感染する病気です。
天然痘は、1977年のソマリアにおける患者発生を最後に、それ以降世界中から天然痘患者はいなくなりました。
WHO(世界保健機構)によって、1980年5月に撲滅宣言が出されました。
日本では、1956年以降患者の発生はまったくなくなりました。

自分の肩を見てください。
肩にポチッとした注射のあとがあるかもしれません。
これは、天然痘ワクチンを注射したあとです。
注射のあとがあるかないかで、その人の年代が分かってしまいます。
どんなに若作りしていても、肩に注射のあとがあれば「あ、この人30歳以上だな」ってばれてしまいます。
日本では1977(昭和52)年以降、天然痘ワクチンの注射は行われていないからです。

ところで、インフルエンザもウイルスによって感染する病気です。
同じウイルスによる病気なのに、なぜインフルエンザは毎年毎年流行し、天然痘は撲滅できたのでしょうか。

一つには、遺伝子の変化があります。
インフルエンザウイルスは遺伝子の変化が早く、人間の体の免疫がそれに追いつきません。
ワクチンを作ろうにも、変化が早く、いろんなタイプのウイルスがいるので、どのタイプのインフルエンザウイルスのワクチンが効くのか、予想がつきにくいのです。
ところが、天然痘ウイルスは遺伝子の変化が全くないウイルスだったのです。
そのためワクチンが作りやすく、体の中に天然痘に対する免疫が作られやすかったのです。

二つ目は、ウイルスが感染する「宿主」の問題があります。
ウイルスはそれ自体では生きていけず、必ず他の生物に感染して増殖するものです。
インフルエンザウイルスは、人間の他に鳥や豚にも感染します。
むしろインフルエンザウイルスは、鳥や豚が本来の宿主であり、鳥や豚から人へと遷ってくるウイルスなのです。
インフルエンザワクチンを作るために、医学者は今年流行しそうなウイルスのタイプを予想します。
どうやって予想するかというと、渡り鳥を捕まえてその鳥が感染しているインフルエンザウイルスのタイプを調べるのです。
その調査結果から、今年流行しそうなインフルエンザウイルスを予想し、ワクチンは製造されるのです。
予想が当たれば、予防接種をしている人には免疫ができるので、インフルエンザに罹る確率は80%も下がるそうです。もちろん、はずれればダメなんですがね。

ところが、インフルエンザウイルスは人以外の生物にも感染するため、たとえ今年流行するタイプが当たったとしても、鳥にも豚にも予防接種するのは非現実的です。
家畜の豚ならやってやれないことはありませんが、すべての渡り鳥を捕らえて予防接種することは不可能です。
このため、インフルエンザウイルスは必ずどこかで生き残ってしまうのです。
それに対して天然痘ウイルスは、人にしか感染しません。

この二つの理由から、天然痘ワクチンは人にだけ予防接種すればいいことになります。
だから、世界中から天然痘患者が完全にいなくなったことで、天然痘ウイルスを撲滅したと言えるのです。

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