2009年3月29日日曜日

技術者としての価値の高め方

こんにちは

先週水曜日はXFEL棟竣工検査でした。
検査といっても実質的な検査は完了しているので、最後に偉い方々にご披露する場です。

ぼくは検査開始2時間前に現場に行き、施工を担当した代理人さんと現場巡視。
偉い方々にお見せしてみっともない部分がないか、最後のチェックです。
機能は万全なのは分かっていても、最後は見た目です。
見た目がよければ、よい評価につながります。
ちょっとした汚れとか、機器の取り付けが曲がっていたりする程度のことで、評価を落とすのは損ですからね。

やっぱり最後は偉い人に褒めてもらいたいわけです。
文句を言われないようにしたい。
発注者側の偉い人が見るということは、施工者側だって偉い人が来ます。
だから、施工者さんにも恥をかかせるようなことがないようにしたい。
施工スタッフも、自分の会社の偉い人に評価してもらえるように。

巡回して、まだ養生シートが貼りっぱなしだったところを発見。
すぐ取り外しの指示を出しました。
同様な部分も見て回るように。

1時間ほど現場を巡回して事務所に戻る途中、XFEL本部の建設担当チームリーダーとすれ違いました。
この方も事前に現場を見て回っているのでした。
さすが!
って、この方はぼくの元上司で、ぼくもこの上司が検査前に巡回していたのを見て真似しただけなんです。
いいことは真似しなくちゃね。
技を伝授してくれた上司に感謝です。

ぼくは自分にもできそうないいことがあったら、真似して行動してみるものです。
それが実践者としての王道だと思っていますから。
ダメな人はたとえいいことを見ても、あいつがやってくれるんだから自分はやらなくてもいいや、と思う。
行動に移さない、習慣化しない。
なので、事前確認する人がいない場合でも、それをするのを怠るわけです。
その結果、偉い人から悪い評価をもらう。
でも、その責任を部下や施工者など立場的に弱い者へ転嫁したりするんですよ。
かっこ悪いね。

ともかく、最後のだめ出しをして事務所に戻りました。
これなら大丈夫。
事務所に戻ると、施工者側の偉い人も挨拶に来ます。
「いい仕事してくれましたよ。優秀なスタッフで助かりました!」と、ウソいつわりなく、お世辞抜きで堂々と言えます。
がんばってくれた施工スタッフが、自社でもよい評価をもらえるタネになってくれればと思います。

そして竣工検査。
偉い方からもお褒めの言葉をいただけました。
特に研究系のトップであるプロジェクトの副本部長から

 装置冷却水設備が静かなので驚いた
 最初、運転していないのかと思って配管を触って確かめた
 触らないと分からないくらい静かだ

とコメントをいただいたのは「やったー!」と思いましたね。
とても嬉しかった。
今回の工事では、建屋工事で装置冷却水設備も建設したんです。
たぶん、これまでの国内の加速器施設では初めての試みだと思います。

建屋工事で施工することにより、他の設備との配置もコンパクトに収まり、合理的に設置できます。
合理的ということはすなわち、早い、安い。
プロジェクトの期間を半年は縮められ、この部分のコストも6割くらいに圧縮できたと思っています。
もちろんぼくにとっても初めてのチャレンジ。
プロトタイプ機の建設時に経験はありましたが、加速器の安定運転のための要の設備ですから、研究者とよく打ち合わせながら、自分でも加速器学会のレポートを読んだりして基礎的なことを勉強しました。
施工スタッフにも、設備の目的、趣旨をよく伝え、スタッフにも勉強してもらいました。
設計図通りにただ造ればいいというスタンスでは上手くいかないからです。

まだ実際に加速器と接続しての運転はしていませんが、音が静かということは振動が少ないということですから、加速器の安定運転のためのひとつの目標がクリアできたということです。
あとは必要温度精度で制御できるかどうかですが、これも自信を持っています。
ダメな設備は最初から転けているものだからです。
早く加速管に通水して運転する日のことをワクワクして待っています。

ぼくは技術者としてもともとは「電気保安技術者」としてスタートしました。
それが手っ取り早く食えるようになるための最短ルートだったからです。
でもそこに留まらず、自分の枠を広げるよう努力してきました。
電気だけでなく機械設備や建築へ、となりとなりへと枠を広げてきました。

ノーベル化学賞の田中耕一さんは講演の中で、こうおっしゃっていました。

 浅くても良いから幅広い知識と2つ以上の専門性を持つことが必要

田中さんは大学では電気工学を専攻しました。
化学は専門外のはずですが、ノーベル化学賞です。
それは田中さんもひとつの枠に収まらず、となりとなりへと広げてきたからなんだと思います。
田中さんも研究者というより技術者なんですよね。

技術者は世界初、世界一である必要はありません。
が、その人の持つ知識や技術が希少であるほど価値を持ちます。
希少価値であるためには、二つの道があると思います。

 1.ひとつの専門を極める
 2.二つ以上の専門を持つ

たとえば1級建築士。
建築の仕事のトップの資格です。
でも1級建築士は日本に30万人もいるのです。
ちょっとした小都市の人口くらい。
30万人もいる中で希少価値を出すのは大変です。
よほどの才能と努力がないと、一流にはなれません。
ところが、1級建築士でも電気設備や機械設備までちゃんと設計できる人はめったにいない。
設備を設計するプロ資格に建築設備士というものがあります。ぼくも持ってます。
1級建築士かつ建築設備士というと、その人数は少なくなって3000人くらいになってしまう。
希少価値が出ます。

だからぼくは後者を選んだんです。
二つ以上の専門を持つこと。
そしてそれを自在に組み合わせられ、新しいものを生み出すこと。
楽して希少価値が出る方法です。
それがぼくのやり方なんだと思っています。

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