2009年6月2日火曜日

プロは100点をねらわない

こんにちは

先週、次世代スパコン施工スタッフをできあがったばかりのXFEL建屋に案内しました。
完成品を実際に見れば、どんな風に施工していけばいいのかイメージが明確になります。
スパコン工事も残り1年ですから、このタイミングで見てもらおうと思ったわけです。

内田樹『態度が悪くてすみません』角川oneテーマ21¥724-にこうありました。
内田さんは翻訳家としても一流です。
プロの翻訳はどうあるべきかを述べてありました。

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すべては結果である。
どれほど訳者の側に善意があっても語学能力があっても「クライアントが欲しているようなアウトカム」が示されなければ、その仕事は評価されない。
「プロ」ということの条件を若い方の中には「自分に厳しくすること」というふうに解釈する方がいるが、これはまったくの勘違いというものである。
自分に厳しかろうが甘かろうが、そんなことは評価にはなんの関係もない。
翻訳においてたいせつなのは「クライアントが読むことを欲しているドキュメント」を差し出すことであり、それに尽きるのである。(143p)
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これはすべての仕事に通じる話だと思います。
どんな仕事でも最終的にはクライアントを満足させるものでなくてはなりません。
もちろん、自分自身が満足できるような仕事をすることはすばらしいことです。
でも自己満足だけではいけないのです。
クライアントが喜んでくれなければ、その仕事に対価は支払われないのです。
そこを間違えてはいけないと思います。

ぼく自身も、エンドユーザーである研究者がいい研究ができる施設を念頭に置いて、日々仕事をしています。
そのためにこの施設でどんな研究、実験をするのか、施設がどうあればそれが実現するのか、考えるようにしています。
もちろん、研究者と話し合ったり、学会での論文をよく分からないながらも読んでみたり、勉強もする。
そういう努力は惜しまないようにしているのです。

実際にできあがった施設を見れば、プロの施工者だったら分かるんだと思います。
どう造れば施主は満足してくれるのか、喜んでくれるのか。
そしてぼくが納得してくれるのか。

それはまた、「手の抜きどころ」も理解してもらいたいということでもある。
エンジニアというのは、右手で理想を、左手で現実を握っている存在だと、ぼくは思っています。
理想ばかり追い求めることはできません。
同様に現実だけに埋没してはいけないのです。
理想を求めつつ、現実的に考え、人、物、金、時間というリソース(資源)を最大限に生かす。
ベストエフォートな結果を出すことが大切。
そのためには、どこに注力し、どこは手を抜いてもいいのか見極めること。
それを言葉でいちいち伝えるのは大変だし、言葉は完璧ではありません。
実物を見れば、プロにはそれが分かると思うのです。

渡邉美樹『もう、国には頼らない。』日経BP¥1300-にもこうありました。

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食事に関して、私たちは(介護施設の)ご入居者の満足度を、95%まで高めていくという目標も掲げています。(略)
現場のスタッフが100%個々のお客様に対応していると、コスト的に見合いません。(187p)
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プロは完璧、100点を目指してはいけないのです。
ましてぼくらはまだこの世になかった研究施設を造っているのです。
それも予算と期限が限られた中で。
その枠の中でベストを尽くす。
見学を通じて、そんなことをスタッフのみんなに伝えたかったんです。

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