こんにちは
小規模な工事の完成前検査がありました。
ぼくも電気設備の検査員として検査にあたりました。
小規模な工事ですので、電気工事は建築一式工事の下請け施工です。
どんな下請けさんを使うのかは、原則的に元請けさんの自由。
自由といっても誰でもいいわけじゃありませんよ。
一定の品質を担保しなくてはいけません。
そんなに難しい話じゃなく、法令や基準通りに施工してくれればいいのです。
電気工事は電気工事士の免許を持った職人さんじゃないと施工できないことになっています。
なぜなら電気は事故になったときの被害が大きい。
絶縁不良によって感電したり、接続不完全によってその部分か過熱、発火し、火災に至る。
そのため知識と技能のある者しか施工してはいけないことになっているのです。
電気工事士など法定資格者の役目は、法令遵守なんです。
安全に関わる法令は、過去の事故事例から得られた反省の集積なのです。
話を戻して、現場検査をしてみたらとても基準通りとは言えない施工がされていました。
長さの足りなくなった電線が、テキトーなところでつないである。
誤って余分に引いてしまった電線が、途中で切断されてそのままになっている。
電線色が統一されておらず、Hot、Cold、Earthの区別がつかない。
検査に立ち会っている工事屋さんを呼びました。
「この部分を施工した人手を挙げて」
一人の職人さんがおずおずと手を挙げました。
「じゃ、工事士免許見せなさい」
今日は忘れてきた、なーんて言う。
ぼくは思わず、いっひっひ!ですぜ。
ぼくの技術者としての出発点は電気主任技術者という保安技術者です。
法令には詳しいのです。
電気工事士法という法律で、工事を行うときは免許を携帯することが義務づけられています。
今日だって検査で指摘された手直し工事をしなくちゃならないんだから、免許携帯じゃないといけません。
法律違反になっちゃうよ、とその職人さんに言い、さらに
「ここは事業用電気工作物なので、1種工事士か認定工事士しか工事ができないんだけど、今日は免許忘れただけで、この資格は持っているんでしょ?」
と言いました。
その職人さんは、はい持っています、今日は免許を忘れてきました、と言いました。
またまた、いっひっひ!ですー。
「じゃ、有資格者だとして聞くけど、ここで電線をつないでるけど、電線を接続するときの基準を答えてみて」
と畳みかけます。
職人さんはだまーってしまいました。
そこで元請けの監督さんを呼んで言いました。
「法令通り、基準通りに施工されておらず、施工した職人さんもどうやら無資格のようですよ」
結局、やり直しとなってしまいました。
ミュージシャンの山下達郎さんは、こう言っています。
山下さんの創り出す音楽は、非常に緻密です。
ある雑誌のインタビューで、レコーディングの時にドラマーやベーシストなどに細かい指示を出しているのか、と問われて曰く、
しません。
できませんし、そんなことしたって同じですから。
本当にうまい人は、そんな指示などなくてもできるんですよ。(中略)
人の音を聞きながら、自分の音をそこにどうはめていくかっていう、
構築する能力とそれをやれる技術力があった
と答えていました。
さらにこう言っています。
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ギャラの安いミュージシャンを使ってやろうかなと思ったことがあったんだけど。
練習スタジオで何回やっても「サーカス・タウン」ができないんですよ。
仕方ないので、高水(健司)さんとかポンタとかに頼んで、5曲だけやってもらったら、リハはたったの30分!
それでやっぱり一流を使わないとダメだと思った(笑)。
ヘタなやつらといくらディスカッションしながら一生懸命やってもしょうがないと。
うまい人とやらないと絶対だめだと。
でも、高いのよ、お金がね(笑)
(『ギター・マガジン』'02.11掲載、村上秀一『自暴自伝』文春文庫+\590-からの孫引き)
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電気工事でも1種工事士など有資格者の日当は高いです。
でもそれだけの賃金を支払う価値を持っているんですね。
確かな知識と技能を持っている。
図面を渡せば、いちいち指示しなくてもちゃんと施工してくれる。
手直しが必要ないなんてあたりまえ、おまけに合理的に施工するので材料の無駄もないし、仕事も早いので工程に遅れもなく、無駄な残業もなし。
反って安上がりになるんですよ。
で、やり直し工事ですが、その下請け電気工事屋さんで免許を持っているのは社長だけということで、社長自らが施工してくれました。
さすが有資格者、きっちりとやってくれました。
ぼくは社長さんに言いました。
若い社員に資格を取るようにさせなくちゃね。
へんてこな社長さんだと給料上げるのが嫌だから、社員が資格を取るのを嫌がったりする。
確かに有資格者の給料はちょびっと高いよ。
でも1割か2割給料上げてやれば、5割よけいに仕事するようになるよ。
そばで手伝っていた若い職人さんが「社長、がんばりますからお願いします!」なーんて言いました。
写真は竣工したばかりのXFEL電子ビーム輸送トンネル(XSBT;XFEL to Synchrotron Beam Tunnel)です。
こちらは安心感のあるいい出来映えで、大満足です。
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