2008年9月3日水曜日

教室の天井高さは3m

こんにちは

これまで理研の研究棟での天井高さは、2.7mを標準にして設計していました。
あるとき偉い研究者を大学からリクルートするときに、その先生から「理研の研究室の天井は低くて鬱陶しい」と言われました。
確かに大学の建物の天井は高くて、必ず3m以上あるのです。
天井が高い分、広々とした感じがします。
なぜ大学の建物の天井が高いのかというと、法令でそう決められていたからです。

 建築基準法施行令(旧)
 (居室の天井の高さ)
 第二十一条  居室の天井の高さは、二・一メートル以上でなければならない。
 2  学校(専修学校、各種学校及び幼稚園を除く。)の教室でその床面積が
 五十平方メートルを超えるものにあつては、天井の高さは、前項の規定にかか
 わらず、三メートル以上でなければならない。

この法令によって、小学校から大学まですべての教室の天井高さは3m以上に造らなければいけなかったわけです。
では、なぜ3mという数値に決められたのでしょうか?

この条文、建築基準法施行令が施行されたのは昭和25年です。
戦後まもなくの頃です。
法令だって、その法令が作られた時代を反映しているものなんです。
その頃の学校をイメージしてみてください。

きっと十分な照明設備はなかったことでしょう。
教室の奥の方まで明るくするにはどうしたらいいか。
大きく高い窓を取り付ける必要があったわけです。
大きく高い窓を取り付けるためには、当然天井も高くなければできません。

きっと換気扇のような強制換気設備はなかったことでしょう。
一つの教室に居る生徒数も今よりずっと多かったはずです。
たくさんの生徒達がする呼吸で、教室が息苦しくなっては困ります。
冬、教室で石炭ストーブを焚いても、酸欠や一酸化炭素中毒になりにくくしなければなりません。
教室の容積が大きければ、空気の量も十分取れます。
同じ面積で教室の容積を大きくするためには、当然天井を高くするするしかありません。
このような理由で、法令が成立した時代の状況から技術的に決められたのが3mという数字だったのです。

ところで現在、この天井高3mという法令が支障を来すようになってきてしまいました。
天井高を3mにするためには、建物全体の高さも高くしなければなりません。
最近の都心部にある高校や大学は、高層建物を建設することも多くなってきました。
たとえば20階建ての建物を建てるとき、天井高さが3mではなく2.7mでよいのなら、0.3m×20階=6mも建物全体の高さを低くすることができます。2フロア分以上も節約できる計算です。
建物高さを低くできるということは、使うコンクリートの量も少なくてすみます。
建物全体の重さもその分軽くなりますから、基礎工事も簡便になり、柱の太さも細くてすみます。
つまり、建設コストを安くすることができるわけです。

事実、国会でもこの学校の天井高3mという法令は問題となったんです。
公共建築物のコストを削減するための、障害のひとつとなってしまっていた。
照明設備も換気設備も十分取り付けられるようになった現代に、この法令はだんだんそぐわなくなってきてしまったのです。
昭和25年から50年以上改正されなかった法令も、ごく最近、平成17年になって改正されました。
今は、学校の天井高さを3m以上にする必要はなくなっています。

でもね。
子どもの脳は、自分の認識する物理的空間の広さに影響されます。
狭い空間で育てられれば認識の狭い脳に、広い空間で育てられれば認識は広くなるのです。
その意味で、せめて小中学校の教室は天井高さを3m以上のままにしておいてもらいたいですね。

学校の天井高が3mと決まった理由は、友人の建築家福田さんに教えてもらいました。

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