こんにちは
ぼくの仕事のひとつは、工事の監督員です。
時間と心に余裕のあるときは、決められた打ち合わせ時刻より早めに現場に行って、担当者の人たちと雑談をすることが好きです。
その雑談はたいてい、子どもの話や学生時代の話など、仕事とは直接関係しない話です。
でもやっぱりお互い同じ仕事に取り組んでいるもの同士ですから、仕事の話に飛ぶこともあります。
そういうときは、今の仕事のコンセプトを伝えるチャンスです。
ちゃんとした打ち合わせの時などフォーマルな場より、雑談の中から派生した場の方がよりよく伝わったりするんですよね。
今、SPring8キャンパス内にX線自由電子レーザー施設を建設しています。
http://www.riken.jp/XFEL/jpn/index.html
建屋工事もあと1年弱で完成です。
2年後の世界初のX線レーザーの発振を目指して、建屋工事もがんばっています。
先日も打ち合わせ前1時間くらい早く現地に着いたので、建築工事の事務所に行っておしゃべりをしました。
コーヒーなんかごちそうになったりしながら、例によって、子どもの話などどうでもいいような話を楽しんでいました。
その時現場所長さんが「ところで、X線自由電子レーザーって何なんですか。この工事に携わっていて恥ずかしいんですが、まだよくわからんのですわ。何に役立つんですか。パンフレットをもらって読んで理解しようとしているんですが、よくわからないんです」と言ったんです。
チャンスです。
もともと説明好きなぼくですから、このプロジェクトのメイン加速器を造っている新竹主任の作った放射光のシミュレーションソフト「Radiation2D( http://www-xfel.spring8.or.jp/ からダウンロードできます)」を見せたりして、説明しました。
難しそうな施設だけど、ラジオのアンテナから電波が出るのと同じ原理なんだ、なんてね。
だけど波長が短くてとても明るいから、原子1個まで見分けることができるようになる、などなど。
そしてぼくらの使命は、次の二つであることを説明しました。
・世界初の施設を造っているので、建設工事のせいで世界初を逃したと言われないようにすること
・実用機なので、数十年安定して使い続けられる建物とすること
現場所長さんは「だいぶんスッキリしてきました。私らのやることが分かってきました。面白味も感じてきましたよ」と言ってくれました。
イギリスの詩人ブラウニングの詩に、こういうフレーズがあるそうです。
小さな円を描いて満足するより、
大きな円の、
その一部分である弧になれ
(日野原重明『新生き方上手』103pからの孫引き)
所詮、個人の力はたかがしれています。
個人でできる仕事は限りがある。
一人で描く円は小さいものでしかありません。
大きな仕事、すなわち大きな円を描くのは、たくさんの人たちと一緒にやらないといけないのです。
大勢の力を合わせて描くしかない。
その時、それぞれの人がバラバラの中心点、半径で描いてしまったら、ちゃんとした円にはなりません。
また、描き始めと描き終わりの位置もきちんと把握しておかないと、誰かの描く線と重複してしまって無駄になったり、または不足する部分ができて切れ切れの円になってしまったりします。
だから、中心点をしっかりと決めてやること、半径をきちんと指し示してやること、始点と終点を明示してやることが、ぼくの仕事なんだと思っています。
そこがしっかりすれば、あとは任せても大丈夫。
それだけの技術、技量のある一流の人達なんですから。
逆に言えば、中心点、半径、始点と終点を理解してもらわないまま仕事を進めてしまうから、後になってトラブル続出になってしまうわけです。
そうなると、付きっきりで直さなくちゃならなくなる。
手間も増えるし、相手の自主性も阻害される。
お互いの意思が上手く伝わらず、疑心暗鬼のまま仕事を続けなくてはならない。
それじゃあいい仕事になるわけがありません。
ぼくらは一緒に大きな円を描いているんだという意識を持つことが大切です。
円を描くためのコンセプト、すなわち中心点と半径を把握し、共有しておくことは必須です。
今やっている仕事の何が中心点にあたり、何が半径に当たるのか。
そして自分たちは円のどこから描き始めてどこまで描けばいいのか。
そういった意識を常に持って事に当たることが、いい仕事を保証することになるんだとぼくは思っています。
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