2008年9月10日水曜日

経営学入門

こんにちは

ぼくの仕事のひとつは、研究施設の建設工事の監督員です。
設計者や施工者の人たちと打ち合わせたり、現場を見て適切に工事がなされているか監督する仕事です。
施工会社の窓口となる「現場代理人」と打ち合わせを行います。

ぼくが今の仕事に就いた頃、10年ちょい前は、現場代理人はぼくより年齢が上で、かつ経験豊かな方が多かったので、ぼくが教えてもらう方が多かったです。
でも今は現場代理人の方がぼくより若く、ぼくの方が知識も経験も多くなってきたので、たまに仕事の基本みたいなことを講釈するなんてことも必要になってきました。

現場代理人とは誰の代理かというと、施工会社の社長の代理なんです。
工事は会社から離れた場所で、自律的に行っていく必要があります。
社長が直接指揮命令していくことはできません。
だからその代理として現場に配置されるのが、現場代理人なんです。
社長の代理なんですから、経営感覚を持っていなければならないのは当然です。
経営学の基礎的なことくらいは知っておかないと、いい仕事はできません。
若い現場代理人さんに、以下のような話をしてみました。

この世の中のものはすべからく、次のような値段の内訳になっています。

 1.≒1/3が原材料費
 2.≒1/3が直接人件費
 3.≒1/3が管理費

100万円で売っている品物があったら、だいたい33万円が原材料費で、33万円がその品物を作るために直接的に必要な労働者の賃金で、残りの33万円がその品物を作るために間接的に必要な費用、事務所費とか倉庫の費用とか購買や経理の人、いわゆる間接部門の人件費ということになります。
受注額100万円の電気工事で言えば、33万円が電線など材料費、33万円が職人さんの賃金、残りが現場代理人の給料や事務所のレンタル費、本社の経費などになります。
実際、マクドナルドの100円ハンバーガーだって、原価は30円程度なんです。残りの30円~40円が、お店の店員さんの賃金やレンタル料、光熱費、そのまた残りの30円が本社経費なのです。

上の3区分の中に利益は直接的に見えていませんよね。
どんな仕事でも利益は出さなくてはいけません。
利益が出ないと、仕事は継続していけないからです。
では、利益はどこで出したらいいのでしょうか。

1の原材料費を節約するのも大切です。
仕入れ方法を大口契約にするなど合理化して、すこしでも安くする。
あるいは、原料の一部をほぼ同じ性能で値段の安い代替品に変えて、コストを下げる。

ただし、原材料費を節約するのはとても大変です。
この部分で大きな利益幅を稼ぐことは不可能といっていい。
この部分はお客さんに直接渡すものですから、ちょっとでも質が下がるとクレームが来ます。
ハンバーガーの肉の質が落ちれば、不味くなります。
電線を安物にすると、事故の危険性が高くなります。

最近廃業した船場吉兆もそうですね。
原料費を大幅にカットするために、お客さんの食べ残しの使い回しをしたわけです。
こういうことをすると、一時的に利益は出ますが、会社は継続できなくなるリスクを背負います。
結果としてお客さんは離れて行ってしまい、廃業に追い込まれてしまいます。

余談ですが、船場吉兆の場合、直接的に被害を受けたお客さんはいないようです。
食中毒などになった人もいないようですし、料理は美味しかったそうですから。
なので、品位の問題なんでしょうね。詐欺って言うべきかな。

飲食店では普通、作った料理の25%もの量が残飯となってしまうそうです。
とてももったいないですね。
ぼくならもらって帰りますよ。他のお客さんが残したものだって。
アメリカやヨーロッパには「フリーガン」と呼ばれる人が増えているそうです。

レストランなどで、手もつけられず捨てられる食べ物をただで、あるいは安くもらってきて、それを食べて暮らしている。
だからといって乞食なような人ではなく、ちゃんとした社会人。
エコロジーのために、残飯を食べている人たちです。
ぼくもそういう暮らし、憧れちゃいます。
まして吉兆のような高級料理なら、喜んでもらいますよ。
ともかく、船場吉兆は不当なやり方で利益を上げていたのが問題だったわけです。

原材料費のカットは、とても難しい。
どの会社も1%でも2%でも節約できないか、常に考えています。
大きくカットして利益を出すなんてことは、とても出来ない相談なのです。
ですから、この部分をケチってしまうのは危険。
船場吉兆の二の舞になってしまいます。

次の直接人件費も節約は難しい。
船場吉兆で言えば、料理人さんや仲居さんの人件費です。
ここも味やサービスに直接響いてくるところですので、お客さんの目は厳しいところ。
いくら安い給料でも、未熟な料理人をつかったら、ろくな料理はできないでしょう。
アルバイトで雇った未熟な仲居さんにサービスされたお客さんは、やっぱり不快になります。
結果としてお客さんは離れていってしまいます。
船場吉兆だって、この部分はケチってはいなかったようです。

工事で言えば、職人さんですね。
へたくそな職人さんでは、やり直しになっちゃうかもしれません。
完成後、事故や不具合が多くなってしまうかもしれません。
やっぱりそれなりの賃金を払ってでも、腕のいい職人さんを使った方が得です。

直接人件費を大きくカットして利益を出すなんてことは、とても出来ない相談なのです。
ですから、この部分もケチってしまうのは危険。
もちろん、職人さんの遊び時間、待ち時間が発生しないように、工程管理はしっかりやらないとだめですよ。
無駄な労務費は、利益を圧迫します。

じゃあ残るは管理費です。
ここが一番節約代があるんですよ。
でもここを節約するのは勇気がいるんです。
なぜなら、管理費には現場代理人や現場スタッフの賃金も含まれているからです。
人間は、自分だけは得したいと思う存在ですからね。
自分に関係した部分をカットするのは、とてもつらいわけです。

だいたいアホな経営者は、会社が傾きかけているのに自分の給料はそのままで、安い原料を使っちゃったり、下請けメーカーを買いたたいていじめたりしますよね。
そんなことは長続きしないんです。
自分の不都合を他人に押しつけて解決するような経営者では、遅かれ早かれ倒産してしまうのが当然です。

話を戻して、利益を出すポイントはいかに管理費を節約できるか、です。
この部分はお客さんに直接提供されるサービスではないので、お客さんからクレームがくることはまずありません。
その意味で、安心して節約しましょう。
それに、この部分は自分の努力で成果が上がる部分なのです。
不都合を他人に押しつける必要がない。
無駄な費用を自分だちが使っていないか、現場代理人の仕事はそこから始まると思います。

なーんて、ちょっと理想論かもね。

0 件のコメント: