2008年9月24日水曜日

プロは記憶する

こんにちは

ぼくの仕事のメインは、新しい研究施設や実験施設を造ることです。
その施設ごとにだいたい1年から3年のプロジェクトとなります。
プロジェクトごとに違う人たちとタッグを組んで仕事を進めます。
違った会社、違った経験を持つ人たちです。
その人たちとぼくは、1年から3年つきあうことになるわけです。

X線自由電子レーザー施設の建屋建設も、残り6ヶ月あまりになりました。
この時期になって、研究者から「マシンを据え付けるトンネル壁に接地銅バーが欲しい」とリクエストがありました。
若い現場代理人にそれを伝えると、即座にこう答えました。

 トンネルの長さは280mくらい。
  銅バーは1mあたり1万円くらいでしょう。
   よって、トンネル南北に設置して500万円強でできると思いますよ。
    もちろん、あと半年あるからやれると思います。

おーーー、サスガです。
プロらしい仕事ぶりになってきましたねー。

その人がプロかどうか見わける方法があります。
それは次のような質問をしてみることです。

 ・この仕事、いつまでに完成する?
 ・この仕事、いくらでできる?

この質問に即答できる人はプロの腕前を持っている人です。
検討します、とか、社に戻って上司と相談してきます、なんて言う人は失格。
たとえ名刺に「課長」や「主任」の肩書きが書いてあっても、とてもその職位にふさわしいプロの仕事ができる人とは思えません。
プロの仕事ができる人は、上の質問に即答でき、さらにその仕事が完成してみると、ほぼ言ったとおりの期日に、言ったとおりの金額でできあがるのです。
つまり、プロの腕前とは、ひとことで言えば「概算ができること」なんです。

概算ができるためには、

1.どのような方法でやればよいかを知っている
2.それにいくらかかるか知っている
3.それがいつまでにできるか知っている

が必要です。
これらは互いに関連しています。
方法が決まらないと、コストと期日も決まりません。
また、コストが決まっているのなら、それによって適切な方法を選択する必要があり、コストと方法が決まれば期日も決まります。
期日が指定されているなら、そのためにかけられるコストを見込んで方法を選択しなければなりません。
おおよそプロの仕事とは、この三つについて知識と経験に裏打ちされているものだと思います。
そして、自分のやっている仕事の数値をきちんと記憶しているんです。
先の若い代理人の場合なら、マシントンネルの長さをきちんと記憶している。
銅バーの単価を記憶しているんです。
だから上のような質問にも即答できるわけなのです。

プロの仕事ができる人と一緒に仕事をすると、ホントに気分いい。
何が気分いいかというと、手もどりが少ないのです。
手戻りとは、あるやり方で仕事を進めているときに途中でにっちもさっちも立ちゆかなくなって、方針転換して最初からやり直すことです。
手戻りがあると、よけいなコストがかかってしまって、予算オーバーになりがちです。
そのうえ、よけいな時間もかかってしまって、期日に終わらない、他の工程に影響が出てしまう。

やり直しが多い仕事ほど消耗するものはありません。
お金や時間ももったいないですが、今までの努力を無にしてしまうほど精神的にダメージが大きいものはありません。

では、プロの仕事を身につけるにはどうしたらいいでしょうか。
ぼくはいつも、この仕事はどんな方法でやっつければいいか、いつまでに終わらせることができるか、いくらかかりそうか、を意図的に予想してきました。
そして、その予想を誰かに公言してしまう、約束してしまうようにしてきました。

時には予想が外れてしまうこともありました。
恥をかくこともなかったとは言えません。
失敗のリカバーに手間取ることもあった。
でも、だんだん言うとおりにできるようになってきたと思います。
それは、その経験から得たことをしっかりと記憶してきたからだと思っています。

0 件のコメント: