こんにちは
ぼくの仕事のメインは、新しい研究施設や実験施設を造ることです。
その施設ごとにだいたい1年から3年のプロジェクトとなります。
プロジェクトごとに違う人たちとタッグを組んで仕事を進めます。
違った会社、違った経験を持つ人たちです。
その人たちとぼくは、1年から3年つきあうことになるわけです。
今ぼくはSPring8にX線自由電子レーザー施設を造っています。
電気設備を作ってもらう若い(と言っても中堅かな)担当者とも3年のつきあいになります。
彼らにも「プロらしい」仕事をしてくれるようになってほしいと思っています。
ぼくは「仕事の1/3は教育である」と考えています。
仕事をする中で、誰かを教えることもあるでしょうし、誰かから自分が学ぶことも必要。
ぼく自身、いまの仕事を始めたばかりの頃は年長の人たちとの仕事でしたから、学べることは存分に学んできました。
いまはもう、メンバーの中ではぼくの方が年齢が高くなることが多いので、せっかくある期間一緒に仕事をするのだから、ぼくの知識と経験を若い人たちに伝えていきたいと思っています。
もちろん、ぼく自身が若い人たちから学ぶことも忘れずに。
もちろん具体的な仕事を進めることが最重要ですが、学び学ばれしつつすすめる方がいい仕事ができるんだと確信しているのです。
仕事は雑多な要素の組み合わせですが、その中に必ず教育はあるべきだと思っています。
教育という視点のない人の仕事は、面白いものになりません。
仕事における教育とは何かを、一言でいうと
仕事は積み上げるものである
ということです。
今までの経験や知識を総動員して、現在の仕事に生かすこと。
「ああ、これはあの時のあれと同じ考えですね」と相手が言ってくれると、積み上がってるなーって思います。こういうときは、忙しい時期でも元気が出ます。
逆にぼくの方が「おいおい、あの時のあれと同じにやってくれればいいんだよ」とケチをつけなくちゃならないと、積み上がった気がしなくてがっかりします。疲れがドッと出ちゃいます。
さて、では仕事を積み上げるためにはどうすればいいか。
ぼくの尊敬する国語教師、野口芳宏さんは
経験は意図的に積まねばならない
と言います。
つまり、ただのんべんだらりと時間を過ごしたのでは、本当の経験にはならないのです。
技術者の実力を示す公式があります。
実力=知識×(経験)^2
もちろんこの式の経験は、意図的な経験のことです。
意図的な経験は、実力に二乗で効いてくるわけです。
知識が0というのも困りものですが、意図的な経験は知識も増強してくれます。
知識に裏打ちされていない経験は、やはり脆弱なものでしかないからです。
同じく、経験に裏打ちされた知識は、強力なものになります。
経験を意図的に積むためには何をすればいいでしょうか。
それは「反省」する、ことだと思います。
失敗したらその原因をとことん考え、次に生かす。
成功してもその原因を分析し、自分の技になるまで高める。
反省するためには、失敗したときでも成功したときでも、その経緯、個々の要素をこと細かく記憶しておく必要がある。
物事を厳しく視てそれを脳にインプットしていく。
インプットされた記憶と結果を照合させることなしに、分析はできません。
そしてその分析結果を元にして、次に経験することをデザインするんです。
その意味で、意図的な経験とは人為的なものなんだと思うのです。待っているだけじゃダメなんです。
それが、経験を意図的に積む方法なんです。
きちんと記憶し、知識化された経験は、次に活きます。
失敗した経験は、同様な失敗を繰り返すことを防ぎます。
成功した経験は、再度の成功へと導きます。
さて、このコラムでぼくの一番言いたいこと。
経験を意図的に積み、仕事を積み上げていっていい仕事をするためには、
記憶力を鍛えておけ
です。
いい仕事をする人はすべからく記憶力が抜群です。
これは間違いないです。
ビルゲイツの記憶力のすごさは有名です。
ぼくも仕事でたまに高級官僚の人と打ち合わせる機会がありますが、その記憶力は尊敬に値します。
彼らはその記憶力を活用してバリバリ仕事を進めているわけです。
最近の学校教育の風潮では、記憶力は軽視されているように思います。
暗記して何になる、暗記しても役に立たない。
確かに学校で習うことを暗記しただけじゃ、役に立ちません。
暗記したものを応用することができないと意味がない。
でも、応用は学校で教育しづらい、不可能なものです。
それはやっぱり社会に出て、現実に仕事をしてみないと磨かれない能力です。
だから、学校ではその前段となる部分を鍛えているのだ、と考えるといい。
入試でも暗記問題が出題されます。
青色LEDの発明者中村修二さんは「入試はちょーウルトラクイズだ」なんて言っています。
でも中村さんにしても、あの膨大な著作を次々と出版しているのを読めば、ものすごい記憶力の持ち主だと分かります。日亜であったことを事細かに記憶しているから、ねちねちとあれだけのものが書き続けられる。
もちろん、青色LEDを発明するのだって中村さんの全くの独創ではなく、過去のいろいろな研究者たちの研究結果の上に成し遂げられたものでしょう。
また、毎日の実験で失敗したこと、成功したことを反省して、次の実験をデザインする。
つまり、ちゃんと必要なものは記憶して、その上に自分の研究を積み上げることができたから、青色LEDを発明することができたんだと思います。
入試で記憶力が試されるのはなぜか。
記憶力に長けた学生を入学させたい、記憶する回路を脳に持った学生を入学させたい、という趣旨で暗記問題が出題されるのだと思うのです。
記憶力は学問を積み上げていくのに必要な能力と認めていたのだと思います。
それが、暗記学習の<立法事実>だったのだと、ぼくは思うのです。
学生諸君、暗記をバカにせず、記憶力を鍛えておきなさい!
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